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一人と六姉妹の話 31

「――なんか」

その時、祖父が呟いた。起きていたのか。

「いや、あの……昨日さ、何か言いよったやろ、ばあちゃんのお姉さんのこと」

思わずしどろもどろになる。こちら側には当分戻ってこないだろうと思っていたので、何をどう尋ねるかまだよく考えていなかった。聞こえていないわけではないと思うが、祖父は何も答えず、私には見えないフィルターを通して何か別の景色を見るかのように遠い目をした。

「もうさあ、知っちょう人じいちゃんしかおらんやん。どんな人やったん? 何か聞いちょう?」

祖父は相変わらず何も言わない。やはり聞こえていないのだろうか。いつもの調子で、目は開いたまま再び眠りの世界に戻っていったのか。どうやらそのようだ。いくら年齢の割にしっかりしているとはいえ、私が期待をしすぎたのだろう。それに、考えてみれば、子供の頃から祖父とはまともに会話をしたことがない。懐くとか懐かないとかいう以前の問題として、もともと全く通じ合えない人だと思っていた。向こうの私に対する認識も似たようなもので、孫として(しかも初孫なのだが)可愛がるとか気にかけるといったことは一切なく、この家で何となく飼われている老猟犬のように、ただいるだけの奴、この家に出入りする資格を持っている奴というほどの扱いだった。数十年をかけてもその程度の関係しか構築されていないわけだから、今更祖父を慕う孫の顔をして話を聞くというのも確かに都合がよすぎる。むしろこのままなあなあにフェイドアウトしてしまったほうが気も楽かもしれない。そんなことを考えていた矢先のことだった。

「なしそげなことが知りたいとか」

それはきっぱりとした口調だった。そして私を見据える視線の強さに、思わず私はたじろいだ。なぜ知りたいか? なぜって? そんなこと、考えたこともなかった。そして祖父はそんな私の戸惑いを見透かすように言った。

「――いろいろあっちょうとたい」

そう言うと、祖父はぴしゃりと戸を閉めるように私に背を向けた。呆然としたまま私はその後ろ姿を眺めていたが、やがてその身体は、寝息に合わせて僅かに膨らんだり、しぼんだりするだけの、ただの古い生命体と化した。私はその様子をしばらく見つめていたが、やがて手元の本に視線を落とした。

【終】


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