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もらいもの(仮)6

私はしばらくその様にくぎ付けになっていた。そして思わず隣のホームレスに向かって「今の……」と呟いたが、この世の終わりが見えている男の視界にそんなものが映っていたわけもなかった。背後に誰かがいる気配がしたので、私は男からの反応を諦めて振り向いた。そこには、マスクはもちろん、サングラスをかけ、パーカーのフードをかぶった上につばの広い帽子を目深にかぶり、手袋で指先まで完全防備して、肌の露出しているところがほとんどない女の人が自転車にまたがって立っていた。

「見ました? 今の。こんなことってあるんですね」

女の人はじっと立ったままだった。濃い色のサングラスのせいで、その視線の先に何が映っているのかは分からない。もしかすると何も見ていなかったのかもしれない。興奮のせいで全くの無関係の人に声を掛けてしまったかもしれないと、微かな恥ずかしさを覚えつつ私は再び前を向いた。

結構な間があったと思う。

「ふうん……」

女の人はしみじみ感じ入るように呟いた。ちらりと振り返ってその様子を盗み見たが、元より表情は分からない。だが興味を持っているようなそぶりに力付けられ、私はその人に聞こえる程度の独り言をつぶやいた。

「何かに引っ張られたのかなあ。魚かな? 亀か……?」

私は少し腰を浮かせて水面を覗いた。その時だった。

「あんだけいるんだから死ぬことだってあるでしょう」

一瞬、聞き間違いかと思って私は振り返った。その人はさっきと同じ姿勢で立ったままだった。その表情を窺うことはやはりできない。最初の印象より歳を取った人のように思えるのは、その高圧的な口調がデヴィ夫人に少し似ていたからかもしれない。

「そんなに鳥がお好き?」
「えっ……」

たじろぐ私を尻目に、その女の人は自転車を降りると前かごに入ったエコバッグの中を探り始めた。

「いろいろ考えないこともなかったんですけど、まあ、今日のところはこんなものしかございませんの」

その人はしばらくガサガサやっていたが、茶色い紙袋に入れられた何かを探り当てるとそれをつまみ、爆弾にでも近付くかのように腕を精一杯伸ばしてこわごわ私の近くまでやって来た。そしてそれを私に向かって放り投げた。突然のことに戸惑って、私はそれを取り落とした。拾うために立ち上がったが、その間にその人は再び自転車にまたがり行ってしまった。

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