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もらいもの(仮)31

遠くで撮影に群がっていた人々が一斉に顔をこちらへ向けた。私も立ち止まり、振り返る。池は大きなげっぷをした後のように波打っている。先ほどまで私のいたベンチには一見何の変化もない、だがよく見ればそこに残されているのは私の置いた紙袋と几帳面にまとめられたホームレスの荷物だけである。人々がぞろぞろ集まって来る。撮影も中断したらしい。女の悲鳴が聞こえる。男はその特徴的な眼差しを伏して、人の流れに逆行しながら道の端を歩いてくる。急いでいるのが分かる。私との間隔を測る余裕もないようだ。私は立ち止まったまま、込み上げてくる笑いを堪え、うつむいた男が目の前を足早に通り過ぎるのを見ていた。

しばらく歩いて、ようやく男は私の姿が見えないのに気付いた。私はわざとゆっくり歩き出す。男は落ち着きなく辺りを見回していたが、私が歩いてくるのを認めるといびつな微笑のような表情を浮かべた。これは笑っているのではなく頬のあたりの痙攣のせいで、何か強い感情を抑制している時にこの男はいつもこうなるのだ。私は男の隣に立ち止まると呟いた。

「俺の大事な友達に何してくれてんの」

男は何も答えない。右の頬だけが別の生き物のようにぴくぴく動いている。

「思い通りにいかないからって無関係の人に当たるなんて子供より悪いよ。鳥にボウガン撃ち込む奴とかさ、俺そういうの一番嫌い」

押し黙ったまま奴は頭から煙でも出しそうな顔をしている。その様に思わず吹き出しそうになるのを隠して私は後ろを振り向いた。集まった人たちは皆電話を手にして、途方に暮れたように池の中を覗き込んだり辺りを見回したりしている。近付いてくる救急車の音はここに向かっているのだろうか。水面は上に下にと揺れてはいるが、騒ぎの全てを飲み込んだかのように静かだ。それはまるで、そこにいる誰もが内心そうであってくれたらと思っている「実は何でもなかった」という解釈を裏付けているようにも見える。しかし不思議だ。水面にはあぶく一つ見当たらない。いくら世の中の全てに絶望していたからと言って、最後の呼吸まで諦めるってことがあるのかね。

「……行きましょう」

私は思わず耳を疑った。「え?」

「よくあることですから」

男は俯いたまま絞り出すように言った。

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