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もらいもの(仮)11

その時、ドアが開いた。何の抵抗も遠慮もなく、その開け方はまるで勝手口から入って来る主婦のような気軽さだった。だがそこに立っていたのは、私が頭の中で思い描いていたのと寸分違わぬ大男、ハリウッド映画で悪役の後ろに立っている用心棒の相撲取りのような大男だった。

「あうあうあ……」

言葉にならない。何と言ったものかも分からない。だって私が何をした? 許してください、と言うにも何を許してもらうのか。借金は一応返したし、人様に迷惑をかけるようなこともしていない。迷惑をかける以前に人様との接点がないのだから。ああ、でもそんな屁理屈をこねること自体が生意気なのか。でも本当に何も心当たりがないのだから、心にもない謝罪を受けたってあんまり気持ちのいいものではないのではないか。

駄目だ。何を考えているんだ。そんなことを考えている場合か。何かとにかく言うんだよ、身に覚えがなくてもこういう時は謝っておくものなんだよ。ほら、プラゴミがウミガメの住処を脅かしているとかいうレベルで、私が呼吸していることによってどこかの誰かが不都合を被っていることだってあるかもしれないんだから。ほら、ほら!

「ごめんなさい。ごめんなさいいい……!」

脂ぎった長い髪を後ろで一つに束ね、黒いマスクの下には熊のような無精髭をたくわえた男はのっそりと私のほうへ歩いて来た。私は咄嗟にうずくまり、身を守った。

しばらく時間が経った。何も起こらない。ようやく落ち着きを取り戻した私はこわごわ頭を上げた。男はいつの間にか小さな脚立や道具箱のようなものを持ち込み、ブレーカーの箱の中を見ていた。その時、男は私の視線に気付き、ぎろりとこちらを見た。だが再び私がうずくまると、ほどなく男も作業に戻った。

どのくらいそのままでいただろうか。作業を終えた男が出て行ったのは気配で分かった。だがまた何が起こるか分からないので、男の足音が完全に聞こえなくなってからも、私は小さく丸まって身を守り続けていた。さすがにもう大丈夫だろうという頃合いで私は起き上がった。かつてない緊張状態だったせいであちこちが痛む。だが解放された安堵感のほうが大きかった。私は手足を投げ出した。それらが無事についていて、自分で自由に動かせるということをこんなにありがたいと思ったことはなかった。

私は立ち上がり、男が細工をしていたブレーカーの箱を見上げた。だがその高さのために中までは見ることができない。もっとも、見えたところで機械に詳しいわけでもないので何も分かりはしない。そこで私は諦めて、改めて部屋の中を見回した。おそらく、この部屋がカギなのだ。私に用があるのではなく、連中の目的はこの部屋なのだ。だからそこに住む私が邪魔になったのだ。……

「うう……」

山口さんが苦しげに呻いた。見ると、粘性の涙で潤んだその眼を眩しそうに開くところだった。

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