抽選会 9
「宮本さんね」声を掛けられた職員はこちらを見もせずに言った。「そういう態度はね、都会では通じるのかもしれませんけど」
「そういう態度っていや、関係ないでしょ。人倒れてる時に」
「お願いしますね」
何をお願いされたのかも分からないまま職員は行ってしまった。荷物でも放り投げるように老婆の身体が椅子の上に横たえられたのが見えた時、消毒液係が再びドアを固く閉ざした。抽選は続いていた。
しばらくは私も我慢していた。救急車の音でも聞こえれば少しは慰めになるのだが、外は静かで、一向に何も聞こえてこない。もしかすると老婆は見た目に反して軽症だったのかもしれない。付き添いの職員の手当てのおかげで今頃は意識を取り戻し、お騒がせしてすみませんでしたと品よく礼を言っているところかもしれない。そういうことにしよう。だがそう考えるそばから、そんなことはまずあり得ないことが分かっている。
耐えられない。こんなの付き合っていられない。外に出たい。もうどうなろうが構わない。私は立ち上がった。人のものというより何か自然現象に近い働きで、会場中の視線がこちらへ集まった。だがそれがどうした。見たい者は見ればいい。私は並べられた椅子の間を通り、まっすぐ出入口を目指した。行く手を塞ぐように二、三人の職員が無言のまま立ちはだかった。私は言った。
「やっぱりちょっともう、いられません。何かもう意味が分からないので」
職員たちはそういう言葉の意味が分からないという顔でこちらを見ている。
「義務じゃないですよね。でしょう、これ。何かペナルティでもあるんですか、不参加だと罰金とか。だったらそれ、払いますから。すいません。今日はもうちょっと」
相手は何も言わずに突っ立っている。何なのだろう。そういう作戦なのか、それとも本当に言葉が通じていないのか、あるいは言い返す言葉を考えている最中なのか。
「いや別に、否定はしませんよ」焦らされて私は妙に饒舌になった。「ずっとこんな風にやってきてらっしゃるんでしょう。それでそれなりにうまく回ってきたんでしょう。ね? だから別に、いいんですよ。単に私がよく分かってないだけで、否定も批判もするつもりはありませんから。どうぞ、皆さんで続けてください。ただ私は失礼します」
振り切って行こうとしたその時だった。職員たちが両脇に立った。そして私は両腕を掴まれ、挟まれる格好で出入口の方へと連れ出された。