もらいもの(仮)28
* * *
インターフォンが鳴った。
朝が来たのは知っていた。日差しの強さが瞼越しにも眩しい。まどろみの心地よさをなるべく引き伸ばしたい気持ちと戦いながら、ゆっくりと目を開く。サイドテーブルに置かれた液晶時計の画面は光の中で8:35という数字を浮かび上がらせている。:の点滅をぼんやりと眺めているうちに、曖昧だった意識も次第に焦点を結び始める。
数字が36に変わった。そしてインターフォンが鳴った。
私は立ち上がり、モニターの通話ボタンを押した。壁一面の広い窓から降り注ぐ眩しい光が起き抜けの身体を包む。
「……はい」
「おはようございます」
モニターに映る男は、陰気な一重の眼でこちらを見上げて言った。その声はマスクの中でこもっている。
「おはよう」
開錠ボタンを押すと通話を切った。窓辺に立って伸びをする。眼下の街は既に活動を始めている。巨大ターミナル駅の出口という出口から一斉に吐き出される人の流れは辺りの高層ビル群へ向かって砂粒のようにさらさらと流れていく。私は棚にずらりと並べられたサボテンの鉢を手に取り、その重みを確かめた。一つ、そしてまた次の一つ。
再びインターフォンが鳴った。
私は手にした鉢を元の場所に置くと、玄関へ向かった。そしてドアを開けた。
「おはようございます」
モニターの男がモニター越しと寸分変わらぬくぐもった声で呟き、機械的に紙袋を私に差し出した。
「ありがとう」
私はそれを受け取った。男は無言のまま恭しく頭を下げる。私はドアを閉めた。そして受け取った袋を傍らに置くと、クローゼットに向かった。服を着替えた私は紙袋を持ち、部屋を出た。広いエレベーターに乗っているのは私一人で、耳に感じる違和感は気圧の変化のためなのか、隔絶感のためなのか分からない。
地上に降りるとストレッチをする。脚の付け根は特に念入りに行う。口数の少ない管理人の大男がアプローチを箒で掃いている。
「おはよう」
私が声を掛けると、相手は黙って一礼した。
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