重荷 18
疲労の塊となった身体をベッドに転がすと、おぞましいほどの染みに覆われた天井を眺めた。男との会見の残像や動物の欠片を踏んだ感触、染み付いた腐臭や何が痛んでいるのかも分からない痛み、部屋中に引きずり出された荷物の中身など、自分にまとわりつくものの全ては取り返しのつかない破滅を示しているように思える。このままぼうっとしていたらそれは本当に私を飲み込んでしまいそうだ。だが、と、朦朧とする意識の中で極めて微かに、しかし確かに脈を打つ理性が囁いた。結局首尾よく行ったのではないか。目的はこれで十分果たしたのではないか。
事実その通りだった。望み通り、これで私はあれと手を切ることができたわけだ。しかもポケットには高価な時計も入っている。得られたはずの金額だけを比べれば損をしたのかもしれないが、自ら決断を下す手間を省いてもらったと思えば別に惜しくはない。
理性は尚も囁き続けた。ホテル代は向こう持ちで一週間分先に払ってあるし、帰りの飛行機も予約済み、パスポートはあるし財布の中身も無傷だ。厄介払いをしてもらいこそすれ、失ったものは何もないわけだ。
そうだ。意のままに、私はうまくやったのだ。またしてもうまくやったのだ。それにしても眠い。
今はとにかく眠るがいい。お前は疲れている。今は休み次に備えることだ。そしてまた続けるといい。
また次? 何を?
理性は何も答えなかった。それは有無を言わさぬ眠気の波が私を丸ごと忘我の境地へさらっていったからだった。
それからどのくらいの時間が経ったのか。目覚めてもそれはほんの一瞬の空白にしか感じられなかったが、ホテルにたどり着いた頃には既に街は明け方を迎えていたから、丸一日以上眠っていたのだろう。爽やかな朝だった。外は、すこぶる日当たりの悪いこの部屋の中からでも分かるほどの快晴だった。身体の疲れもすっかり癒された私は別人のように清々しい気分だった。
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