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抽選会 6

しかしそれは何だ? 町内会の役員決めみたいなものだろうか? でもそれくらいのことであんな反応になるだろうか。それに大体このご時世、いくら閉鎖的な田舎の話とはいえ、個人の都合を度外視した、有無を言わさぬ強制力のある何かなどあるだろうか。考えているうち、そんなことに真面目に付き合わされていることに対し、呆れるのを通り越してだんだん腹が立ってきた。

だが抽選は淡々と進んでいった。もっともいくら不合理でも、それに大声で抗議するほどの正義感は私にはない。そもそもここの人間ではないし、そこまでの労力を払う義理もない。馬鹿だな、こんなやり方じゃ街全体が立ち行かなくなる日も近いだろう、とは思うが、当面の願いはとにかく早く終わることと間違っても番号が呼ばれないこと、それだけだった。

既に一時間が経過していた。その間、あのおばさんの他に当たった人はいなかった。それにしても、何人当たれば終わりかも分からないというのは考えただけでうんざりしてくる。だがそう思っているのはどうやら私だけではないらしく、場内にはいささかくたびれた空気が漂い始めていた。隣の男も半分眠っているようだ。小さな子供もタブレットを見ながらおとなしくしていたが、さすがに飽きてきたらしく、頭を振ったり、手をぶらぶらさせたりして傍らの母親に咎められている。比較的若い人たちは掌に隠したスマホをこっそり眺めていた。私もそれに倣ったが、頭の中ではこの調子で昼にかかったらどうするのだろう、休憩を挟んで続けるのだろうか、それともぶっ通しでやるつもりなのだろうか、などということを考えていた。

最初はそれも退屈しのぎの仕草だろうと思い、気に留めなかった。隣に座る高齢の女性が、何かを探すかのようにきょろきょろと辺りを見回している。ふと顔を上げたときに目が合った。私の視線を捉えた女性は、無言の内にも決して見て見ぬふりをさせまいと、縋りつくような表情をしていた。女性はその手元で、自分の葉書を私へ見えるようにさりげなく傾けていた。何とはなしにそれを見た私に、女性は顎で微かに前を見るよう促した。葉書の番号と同じ数字がホワイトボードに並んでいた。

私は再び女性を見た。その顔は、何か激しい痛みを堪えているかのように歪んでいた。そしてまるで審判を下すのが私であるかのように細かく首を横に振っていた。

私は何も気付かなかったふりをして再び前を向いた。だから何なんだ。何を求められているというのだ。何も知らないと言っているのに、今まで界隈で見かけたこともない相手なのだからそれくらい言わなくても分かるだろうに、私に何をしろというのだ。

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