一人と六姉妹の話 22
「二番目の姉さんか」
「知っちょんしゃあですか?」
母は身を乗り出した。だがその食い付くような好奇心の勢いに押されることもなく、祖父はゆっくりと目を瞑った。そして、じりじりさせるような間をおいて、看護師の質問にでも答えるように、怠そうに祖父は口を開いた。
「……昔、会うたことはある」
会ったことがある? しかし、この写真の時ではないということか。
「何の時ですか?」母が尋ねた。
「一番上の姉さんの結婚の時たい」昨日のことのように祖父は言った。「使いで俺が祝いを持って行ったとたい」
「それで?」
祖父は牛のようにゆっくりと目を閉じた。先をせかす母をまとわりつく蠅ほどにさえ意識せず、記憶の奥へ一段一段降りて行くような空白の時間が続いた。そして言った。
「裏の庭で子供が遊びよった……。そん時は後でそげなことになろうとは夢にも思わんかったばってんが……そん子供が婆さんやったたい」
婆さん? スミエさんのこと?
そうか。考えてみればそうだ。一番上の姉さんと言えば、東畑に嫁いできた人だ。嫁ぎ先は私の家の親戚筋に当たる。祖父の家と祖母の家はこの結婚で縁ができ、それで後にこの二人も見合い結婚をすることになったのだ。
「それ、お義父さんがいくつの時?」
「いくつちゃ、十四、五じゃったろう……。戦争に行く前たい」
十四、五歳。ということは、庭で遊んでいた子供は六、七歳くらい。結婚した長姉の年齢を二十歳前後と仮定しても、歳の差を置かず後の妹たちが立て続けに生まれたと考えれば、確かに計算は合う。となるとその頃二番目のその人も既に結婚年齢に達していたか、達する直前だったというわけか。つまり故郷を捨てる直前だ。
「そん時に出てきなったとが……その姉さんやった……」
私達は続きを待った。しかしそう呟いたきり、祖父の言葉は深い洞窟に吸い込まれたかのように途絶えた。
「で? どうやった? その時」
母は尋ねた。だが祖父の瞼は重く塞がり、全てをなぎ倒しながらもなお続く地球の自転の力に身を委ねるかのように、眠りの方へ引きずられて行った。
「……何なん!?」母は叫んだ。
「年寄りの言うことは、大概そげなことたい」
父は笑いながら立ち上がり、再び畑へ出て行った。
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