ヤモリ 28
有馬は外へ出た。盛夏の昼下がりはまるで時が止まったようで、蝉の声もあまり聞こえず、歩く人の姿も見えなかった。強すぎる太陽光線はあらゆるものの輪郭を過剰なまでにくっきりと浮かび上がらせる一方で、影は黒く濃く塗りこめるばかりで、その単純なコントラストは非日常的な絵画の中の風景のようだった。エアコンで冷えた身体の体感はしばらく景色に追いつかず、表面ばかりが炙られているようだった。まるで独りぼっちで世界の外に押し出されたような気がした。
長島だって一緒に放り出されてもよさそうなものだけど、と有馬は思った。だって先生も見てたから、同じようにふざけてたのは分かってるはずだ。でもそれはないんだな。あいつ要領はいいから。俺と違って抜け目がない。だから結構ちゃんと勉強はしてるし、橋高にも行くだろうし、そこで友達ができたら俺のことなんかすぐ忘れる。そこんとこ先生もよく分かってんだな。何が違うのか分からないけど俺は一人だけ本当に馬鹿みたいだ。みたいっていうか馬鹿なんだよ。空っぽで自分がないからすぐ調子乗って。てかまたこんなこと考えてるな、俺。それにしても暑いな。
家へ帰っても責められるだけなので、有馬の足は目的もなくいつもと反対の方へ向かった。歩きながら誰かに会えればいいと考えたが、いくら夏休みの中高生とはいえ、こんなに暑い日に昼間から外をぶらぶらしているわけもなかった。あまり来たことのない住宅街の坂を焼け焦げそうなほどの日差しに照り付けられながら歩いているとすぐに朦朧としてきたので、上りきったところにある小さなコンビニで一休みすることにした。
店内をぶらつきながら人心地がついて初めて、有馬は猛烈に喉が渇いていることに気が付いた。冷たい飲み物の並んでいる棚を眺めているとどれも美味しそうだったが、中でもその目は、以前年上の友人たちとカラオケに行った時に飲んだことのある缶チューハイに奪われた。実際のところ、その時はそこまで美味しいとは思わなかった。しかし楽しい気分になったことはよく覚えていて、何よりそういう感覚こそ今の気分に打ってつけではないだろうかと有馬は思った。そしてそっと缶を手に取った。
私服着てるし、うるさそうな店員じゃなかったら行けるでしょ。有馬はレジを盗み見た。レジに立っていたのは、肌の浅黒い、若い女の外国人だった。外人か。じゃあやっぱ、行けんじゃね?……
その時だった。有馬は店員と目が合った。咎められるかと身構えたのも束の間、有馬は店員の目が怯えているのに気が付いた。腰のところで小さく手を上げている。棚に隠れてよく見えなかったが、レジの前には男が立っていた。光るものを持っていた。
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