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重荷 12

私はその正体を確かめようと目を凝らした。動物は私の視線から逃れようとするかのように少し後ずさった。咥えたものが揺れ、カチャッと微かに硬い音がした。何だろう。腰を浮かせて尚もよく見ようとしたその時、動物はくるりと踵を返し、走り出した。

気が付くと私はそれを追いかけていた。走り出したとは言え、どこでそんなに肥えたのか、鈍重な体つきのために逃げ足はそこまで速くない。また、どういうつもりなのか行っては止まり、行っては止まり、こちらを振り返る。まるで私がちゃんと付いてきているかどうかを確かめているようだ。それは私との間に決して手の届かない距離を保ちながら、広い廊下を突き進んでいく。私は引き寄せられるように後に続いた。

玄関を出ると、パッと明かりが灯り、警告音が鳴った。

「止まれ」

私はどこかから監視しているらしい何者かに向かってこの状況の言い訳をしようと思ったが、咄嗟に出てくる言葉がなく、ただ「大丈夫」とだけ相手の言語で呟くと、そのまま動物の後を追った。

動物は暗いほうへ暗いほうへと逃れていく。だがセンサーは広い敷地にくまなく張り巡らされていて、新たな場所へ足を踏み入れるたびに私たちは強い光に捕らえられ、何層もの不快なサイレンの音がけたたましく鳴り響く。だが私はその不穏な情景よりも動物の口元できらきらと光る物の正体のほうが気になった。

やがて私たちは敷地と外の境界までやって来た。だが動物は勝手知ったる様子で、壁が途切れて垣根だけになっているところを嗅ぎ付けると外へくぐり出た。それに倣って私も枝に服のあちこちを引っ掛けながら、何とか苦労して外へとすり抜けた。

いきなり視界を奪われたかのような一面の闇だった。思いがけず足が滑って立ち竦んだ。やがて目が慣れてきて分かったのは、そこが地球の地肌としか言いようのない、剥き出しの岩の斜面であるということだった。立ち止まっている間に動物は行ってしまったに違いないと思った。しかしそれは少し離れた岩の上にいて、こんなところまで付いてきたのがとても信じられないといった顔で私を見つめていた。そして私が気付いたのを見て取ると、満足した様子で再び追いかけっこを始めようと駆け出した。もともとこういう土地に向いた生き物らしく、先ほどまでののろくささとは打って変わり、足取りは軽やかだった。だがその時だった。ズドンという有無を言わさぬ音がして、動物は吹き飛んだ。

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