もらいもの(仮)24
――!!
それはまるで、極限まで圧縮された空気が一気に放出される時の衝撃のようだった。ドアを開けた私は何かを思う暇もなく後ろへ吹き飛び、尻餅をついた。
小箱のようなユニットバスの中にいたのは熊面の大男だった。巨躯を縮こめて便器に座っていた男はイヤホンをしてスマホで動画を見ているところだったが、私に気付くと大儀そうに視線を上げた。
「すいません!」
咄嗟にバタンと扉を閉めた。動悸が止まらない。どうしよう? どうしたらいいのだろう? 今のうちに逃げるか? いや、ちょっと待て。別に悪いことはしてない。山口さんもこっちの部屋には自由に入っていいと言っていたし、私物だって置いてある。だから堂々としていればいいのだ、堂々と。……しかし、そうは言っても置かれている立場がよく分からない。やはり私は人質なのか? 目の前の欲に誑かされているうちに外堀を埋められてしまったのか?
しばらくして、ジャーッと水を流す音がした。身を固くして見ていると、呆気ないほど華奢なドアが外れるように開いた。
「ごめんなさい……!」
思わず土下座の姿勢になり、私は自分の頭を守った。男は私を見下ろしながら立っていた。空気越しにも分かるその生温かい威圧感に押されながら、私は意味も考えずひたすら相手の許しを請い、思いつく限りの謝罪の言葉を並べた。だが、反応が何もないのに気付いて顔を上げると、そこにもう男の姿はなかった。
どっと疲れが押し寄せた。何だったのだ。心臓に悪い。それにしても、この生活に抗わないということは、あの男がこうしてちらちらと視界に入り込んでくることも受け入れるということになるのだろうか。もっとも、あの男が直接的に手出しをしてくる気配はない。あくまでも目立たないところでこちらを見張っているだけの役割なのかもしれない。とはいえ……
その時だった。まずはガシャンと食器が割れるような音がした。それに続いて、ドーンと天地がひっくり返るような激しい振動が隣の壁越しに伝わってきた。まるで重機で建物ごと破壊しているかのような衝撃だ。腰から下に力が全く入らない。辛うじて突っ張った腕で上半身を支えながら、私は息もできずに壁を眺めていることしかできなかった。
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