重荷 20
紹介された店で早速大きなハンバーガーにかぶりついた。見た目といい味といい、それはまさに寸分違わず想像通りといったところで、満たされると同時に気分もますますよくなった。有名人のサインが写真と共にたくさん並んでいる明るい店内は、何か映画で見たことがあるような気もする。辺りは活気と期待感で満ちていた。歩道にせり出すように並べられたテーブルには世界中から集まった観光客たちが群がって、これから始まる一日に胸を弾ませながら同じ食事を頬張っている。私の隣の席に座っているのは誰かと待ち合わせていると思しき肥った白人の若い女で、汚い緑に染めた髪、ほとんどやけくそのような顔じゅうのピアス、弛んだ腹の出た丈の短いTシャツと下着の見えそうなピンクのミニスカートというバランス感覚の壊滅したいでたちをしている。ぶすっとした愛想のない表情といい何といい、田舎者丸出しの垢抜けなさだったが、これもこの日のための彼女なりのおしゃれなのだと思うと微笑ましく、私は手元のガイドブックを開いた。
どのエリアのどの写真も魅力的で目移りする。ビーチもいい、ミュージアムも行っておきたい、もちろんショッピングモールも。有名どころだけじゃない、昔読んだ小説に出てきた通りを歩いてみるのもいいし、あの曲の舞台になったホテルを見に行くのもいい。自殺したコメディアンの最期の家を拝みに行くのもいい。ああ、それを言うならあの劇作家の墓にも行ってみたいね。私は夢中でページをめくった。その時だった。
「ぎゃあああああああああああああ」
高揚する空気を切り裂いて、女の悲鳴が店内に響き渡った。各々の計画に思いを馳せていた私たちの視線はカウンターの奥へと一斉に集まった。ちらりと見える厨房の中に、どこからおどり込んできたのか、口から泡を吹き、伸び放題の黄土色の髪が塊となって重そうに顔の周りを覆っている半裸の女が暴れているのが見えた。だがそれはほんの一瞬のことで、女はどこからか現れた屈強な黒人の警備員に二人がかりで取り押さえられたかと思うと、すぐに私たちの視界から消えた。
私は再びページに視線を転じ、客たちもそれぞれの談笑の続きに戻った。さて、それでどうするか。地図を見てもこの街はとにかく広く、とりとめがなく、何より車向けにできているので、本当ならレンタカーを借りるのが最善なのだろうが、そんな準備もなかったので、とりあえず今日のところは有名どころを一通り回るオープントップバスに乗ることに決めた。
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