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重荷 6

やがて車は脇道に逸れた。行く手には要塞のような壁に囲まれた広大な敷地が広がっていて、荒涼とした周囲の闇とは全く無関係に、別の惑星のようにそこだけぼうっと光を放っている。重厚な門の前まで来ると、男は慣れた様子でそれを開けた。そしてなおしばらく車を走らせたが、一向に建物は見えてこなかった。綺麗に刈り込まれた垣根の隙間からは、水を湛え、華やかにライトアップされた誰もいないプールが見えた。いつの間にか雨は止んでいた。

ようやく車は止まった。それはまさに目を瞠るほどの豪邸だった。だがこれもまたこの街の流儀なのだろうと、私は何の感情も表に出さず、歩いていく男の後に続いた。

男は天井の高いホールを振り返りもせず歩いて行った。壁にはわざと奥行きをなくしたかのような、明るいだけののっぺりとした心象画が無造作にいくつも飾られている。清潔だが、どこか躁病的な印象を受ける絵だ。おそらく名前を言われれば、ああ、と分かるような有名な画家の手によるもので、そのそれぞれに腰を抜かすような金額がついているのだろう。何でもない普通の時に見ればそれなりにかっこいい絵だと思えそうではあるが、ここまで異様な状況下にあると、敢えてではなく、本当にこれをいいと思っているのだろうかということばかりが引っ掛かり、だんだん気持ちが塞いでくる。

長い廊下を抜けると広い部屋に出た。居間と言うのか何なのか知らないが、そこは壁一面がガラス張りの、街の夜景が一望できる部屋で、大きなソファにはがっしりした中年の男が一人腰かけていた。

「やあ、よくいらっしゃいました」

男は俳優のように臆面もなく柔和な笑顔を私に見せ、近くへ来るよう促した。私は横目で運転の男を窺ったが、男は既に一切の人格を失い、兵隊のように動かずその場に立ち尽くしているだけだった。

腰を上げた男は半ば強引に私の手を取ると、力強く握った。ラフなTシャツとジーンズという格好だが、その辺で売っているただの服でないのは見れば分かる。バランスよく鍛え上げられた筋肉や具合よく日焼けした肌からも、年齢を感じさせない完璧なぞんざいさを演出するために物凄い金が掛けられていることが伺える。だがそんな私の冷ややかな観察の視線など意に介する様子でもなく、男は思わず相手をとろけさせるような親しさで「この街はどうですか。気に入りましたか」と言った。私にあてがわれたのがあんなホテルだということは知らないのだろう。私は動じていないところを示そうと、敢えてぶっきらぼうに「ある意味思った通りでした」と言った。男は一瞬私の言葉の意味を測りかね、考えるような顔つきになったが、言外の皮肉までは伝わらなかったようで、「それは良かった」と言ってにっこり笑った。

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