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もらいもの(仮)17

殺されるのは怖いし嫌だ。もちろん私の人生が正真正銘どこから見てもハズレであったことは否めない。いや、ハズレというのも生易しい。それはまさに罰ゲームであったと思う。終わりのない苦役。意志は放棄し何も見ず、身を滅ぼしかねない欲や望みは退化させ、ただ単調な繰り返しの中に辛うじて命をつないできただけの年月。だがそれでも死にたいと思ったことはなかった。自らそれを終わらせたほうがましだと思ったことはなかった。だから……

だがそこで私の思考は止まった。何度考えようとしても同じだった。これは本当に私が思っていることなのだろうか。純粋に、切実に、私の中から生まれ出た考えなのだろうか。どうもそんな感じがしない。上滑りしている。単に慣習に流されているだけのような、こういう時はこんな風に思うようにしましょうというやり方に従ってそう思わされているだけのような気がする。

その時、二つ向こうのベンチに大きな男がどかっと腰を下ろすのが見えた。あの男は、多分……。いや違うだろう、あんな体型の人は皆あんな風に見えるんだ。ぱっと見同じに見えるんだ。それだけのことだ……。私はそう自分に言い聞かせながらも、そっと身体を傾け、男の側に背を向けると小さく縮こまった。

もし自分がドラマや何かの主人公だったら。(昔何かで見たトム・クルーズや『24』の俳優の姿が頭に浮かんだ。)私が物語の中心だったら。必死で悪と戦うだろう。いつ寝ているんだというくらいの行動力で敵と対峙するだろう。頭脳を駆使して謎を解き明かそうとするだろう。いやそんなアメリカ風の勇敢さを発揮せずとも、今この瞬間、そこら辺を歩いている人に助けを求めたっていいんだ。ほら、あそこには自転車に乗っている警察官もいる。でもそれなのに、全然そんなことしようと思わないのはなぜなんだ。夢にもそんな気がないのはなぜなんだ。まあ殺されたとしても、そうなったらそうなったで……などと心のどこかで思っているような気がするのはなぜなんだ。こんなに小さく背中を丸め、動かないでいるのはなぜなんだ。

警察官が近くで自転車を止めた。私はハッと顔を上げた。しかし警官がつかつかと迷いのない足取りで近付いていったのは隣のホームレスのほうだった。しばらく警官はホームレスに何事かを話しかけていたが、相手は不動のまま、その表情には何の変化も見られなかった。やがて警官は立ち上がると、再び自転車にまたがって行ってしまった。


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