もらいもの(仮)21
「山口さん。もう私は騙されませんよ!」
仕事を終えた山口さんは、額の汗を拭いながら達成感に浸っているところだった。
「騙されないというか、最初から分かり切っていましたよ。あなたたちは私を利用しようとしているんですよね? 保険金をかけて殺すつもりなんですよね? 私がお人好しなのをいいことに、物で釣ってその時が来るまで飼い殺しておこうという魂胆なんですよね?」
山口さんはぽかんとして私を見ていた。
「確かに私は生きる気力に欠けています。何となく今が快適ならそれでいいやと思い始めていたのも事実です。だけど考えてみればこんなふざけた話はない。表向き自由にしていいというのがまた人を馬鹿にしている。どうせ私には何もできないだろうと高を括っているんですよね? そうでしょう? でもね、いくら情けなくたって私も一人前の男なんだ。そうですよ。あなたたちの思い通りになどなるつもりはありません!」
「そ……」と山口さんは言いかけたが、声はかすれ、一度唾を飲み込んだ。そうして喉を落ち着けると、やけに親しげに笑いながら言った。
「そんなこと考えます? いやぁ、俺そんなことまで考えるなんて思わなかったなぁ」
「とぼけたって無駄ですよ。大方、こう言われたらこう返すようにというマニュアルでもあるんでしょう」
「マニュアル? え? マニュアル? 何のことですか?」
馬鹿が馬鹿のふりをしている。下手な芝居が癇に障った。だが相手はあくまでそれを貫くつもりらしく、ニヤニヤ笑いながら続けた。
「奥さんはね、あなたのことが気に入ったんですよ」
「ええ、そうなんでしょう。いいカモとしてね」
「またまたあ。え? っていうか自覚はないんですか?」
「何の自覚ですか」
「もー。またあ。え? マジですか? マジで言ってます? そうかあー。やっぱそういうもんかー」
「何なんですか」
「やっぱあれかなあ、都市伝説みたいなもんかと思ってましたけどねえ。ほら言うでしょう、美形の人ほど出会いが少ないって。相手のほうが敬遠しちゃうんですかねぇ。だからモテてるのに気付いてないのは本人だけっていう。もったいないですよねぇ。ほら俺みたいなのだと、他のところでカバーしないとあれですけど」
「何言ってるんですか?」
「そっちこそ何言ってるんですか?」
そう言うと山口さんは血走った目で私を睨み上げた。
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