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もらいもの(仮)12

突如、憑りつかれたように山口さんは咳込んだ。そしてかなり長いこと大声でえずきながらしつこい痰と格闘していたが、また突然それが止んだかと思うと、しばらく放心したようにぼーっとしていた。私は固唾を飲んでそれを見守っていた。どういうタイミングなのか分からない。だが山口さんは「ふう……」と深く息を吐くと言った。

「腹、減ったでしょ」
「えっ……」
「ちょっと、待っててくださいね」

そう言うと山口さんは立ち上がり、中腰で軽く手刀を切りながら部屋を出て行った。

「えっ、ちょっと、何なんですか! どこ行くんですか! 山口さん!」

思わず私も後を追った。しかし、ほんの数歩の差で先に出た山口さんが行った先はすぐに分かった。薄い壁越しに、隣の部屋からガサガサと何かをしている音が聞こえる。ほどなく紙袋を持った山口さんが戻ってきた。

「荷物とか、全部あっちに置いてありますんで」
「え……」

山口さんは当たり前のように袋の中身を床に並べ始めた。それを持って入ってきた時から匂いで分かってはいたが、持ち帰り用の容器に入れられた何か温かい食べ物で、ほかほかの焼きたてパンまで付いていた。どんな謎や不条理もこんなものを見せられては一瞬で霞んでしまう。本当にこれはそういうものだ。私も「一体どういう……」と一応口ごもりはしたものの、外に出たのは別の言葉だった。

「これいいんですか食べて」
「どうぞどうぞ。どっちがいいですかね。えーと……」

山口さんはそう言うと二つの容器を持ち上げ、貼られている印を見たが、違いが分からないらしく「まあ、適当に」と私に委ねた。私は近いほうの器を取った。蓋を取ると、見たことがないようなスープが入っていた。私は夢中でそれに口をつけた。その味は……どう言ったらいいのか。旨いは旨い。滅茶苦茶旨い。こんな旨いもの食べたことがない。だがこれは旨いよりも先に絶対何か言わなければならない味だ。味のほうでこちらに何か印象的な表現を求めてくるような味だ。食レポの芸能人がほら、一口食べて「味の何とかかんとかやー!」とか言うような……。あれだ……。思い付かない。何しろこんな味のものを食べたことがないから語彙もない。何と言うかこれは……。えー……。もういい。もうそんなことはいい。今は食うことだけに集中させてくれ。

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