重荷 17
それからどう歩いたのかは自分でもよく分からない。擦り傷をいくつも作りながら弱々しい光のところまで降りると、街灯は山道に沿って一定の間隔で並んでいたから、それを頼りにだらだらと曲がりくねった坂を下っていった。話ができる相手ではないとようやく悟った男もそれ以上私を追ってはこなかった。
一つの灯りにたどり着くとまた次へ、光に吸い寄せられるようにただ足は身体を運んでいった。歩道のひび割れに幾度となくつまずき、鉄条網で唐突に絶たれた道を迂回し、誰かに声を掛けられても顔も向けず、頭は空っぽで、行き着く先のことも考えなかったが、明け方、最終的にたどり着いたのはダウンタウンの高層ビル群の中だった。それはこの街のどこを歩いていても視界の中にあった。闇を突き刺し聳え立つ塔の群れは、人智が到達した最高の成果であるとばかりに誇らしげで、それ自体に発光する機能が備わっているかのように光り輝いていて、たとえ太陽が消滅しても関係なく、まったく何の問題もなしにやっていけると宇宙に宣言しているかのようだった。
だが不思議なことに、ビルの隙間に足を踏み入れてもそこにいるのは血走った目をして同じところをぐるぐる歩き回っている男や、吐瀉物まみれで倒れている女など、人種を問わず狂った人たちばかりで、煌々と光を放っているビルのどの窓からも中に人の気配は感じられなかった。遠目にはモノリスのように深遠で謎めいて見えた外観も、近くで見るといかにも安っぽく薄っぺらな、急ごしらえにできた郊外のチェーン店の外装のようだった。足元には何層もの意味をなさない呻きがまとわりついていたが、静かで、私はその耳を突くような静けさの中で、なるほどこれはこの国にとってのみならず世界にとっての、人間全体にとっての誘蛾灯のようなものだったのだと思った。
ホテルの受付には誰もいなかった。相変わらずぶつぶつ文句を言っている背の低いメイドの女と一緒に臭いエレベーターに乗り、部屋に戻ると、案の定荷物は荒らされていて、引き出しを開けたがあれも消えていた。迎えに来た男が命じられ盗っていったのだろう。最初からそのつもりだったのかもしれない。だがそんなことももうどうでもよかった。
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