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六道参りとお地蔵さん

ちまたの路傍で、まちかどの一角でよく見かけるお地蔵さんとは、どんな存在なのでしょうか?

お地蔵さんというのは、高みから僕たちに救いの手を差し伸べてくれるのではなく、「六道抜苦」と言って、現実世界にも地獄世界にも、六道のあらゆるところにいて、僕たちから苦しみを取り除いてくれます。
そばにいて、寄り添ってくれる存在です。
まちなかにも、少し目を凝らせば、あちこちにお地蔵さんがいます。たぶん、まちなかであっても、コンビニよりもたくさんいらっしゃると思います。


公園の一角になどにも、祠に収められたお地蔵さんがいらっしゃいます。どなたかがお世話をされています
このように、建物の中に埋め込まれるようにして祠に収まっている、ビルトイン型のお地蔵さんもいらっしゃいます。もともとこの地にいらっしゃったのでしょうが、建物がビルになるなどして、地面に祠を据えることができなくなったものの、どこかに移すのは偲びないと考えた方が、このようかたちにしたのでしょう

六道のすべてにいるので、六地蔵

そして、六道(天界・人界・修羅界・畜生界・餓鬼界・地獄界)のすべてにいるので、六体セットで鎮座しているケースが多いです。六地蔵といって、 墓地の入口などに鎮座しているのをご覧になった方も多いかと。

奈良の矢田寺は閻魔王を祀る閻魔堂がありますが、閻魔王は地蔵菩薩の化身なので、お地蔵さんがたくさんいらっしゃいます。もちろん六地蔵もいます。

矢田寺の六地蔵

天橋立に行ったとき、駅前の智恩寺さんにも六地蔵さんがいらっしゃいました。
よく見ると、お化粧をしているので、女性のお地蔵さんですね。

天橋立の智恩寺の六地蔵さん。顔に白粉が塗られています

こちらは兵庫県加西の多聞寺の六地蔵さん。かわいらしいお地蔵さんで、このタイプのお地蔵 さんもよく見かけます。

加西市の多聞寺の六地蔵さん。現代的なフォルムをしています

こちらは、加西のさらに西の福崎の應聖寺の六地蔵さん。

福崎の應聖寺の六地蔵さん

宇治に「六地蔵」という地名があります。京阪電鉄やJRの駅名にもなっています。
小野篁が平安初期の仁寿2年(852)に1本の桜の樹から6体の地蔵菩薩をつくり、大善寺というお寺に祀りました。
それにより、大善寺の周辺は六地蔵村と呼ばれるようになりました。それが現在の宇治の六地蔵です。

これがお地蔵さんが収められている六地蔵堂。六角形のお堂です。

小野篁が刻んだ地蔵菩薩が収められた大善寺の六地蔵堂。六角形のお堂である

京都の六地蔵めぐり

ところが、時代が下って平安後期の保元年間、つまり平清盛の時代に、1 体だけを残して、都に通じる主要街道の入口に残り五体を分祀します。
なので、現在は大善寺には地蔵菩薩は1体しか残されていないのですが、このことを契機に、これらの地蔵を巡拝する六地蔵巡りの風習が生まれました。
毎年8月22・23日の地蔵盆には、それぞれのお寺で六地蔵めぐりをされている参拝者をお迎えしています。

大善寺(伏見地蔵)-奈良街道
徳林庵(山科地蔵)-東海道
上善寺(鞍馬口地蔵)-若狭街道
浄禅寺(鳥羽地蔵)-西国街道
地蔵寺(桂地蔵)-丹波街道
源光寺(常磐地蔵)-周山街道
すべて街道の入口にあり、京へ、山科へ、宇治へ、また奈良へ向かう交通の分岐点でもあるので、多くの旅人が往来していました。旅の安全、無病息災を祈願して、これらの場所に安置されたといいます。
google map に落としてみたのですが、洛中周辺をぐるりと取り囲むようにして安置されていま すね。
全長 37km。9時間あれば歩けそうです。フルマラソンよりも短い距離なので、足に 自信のある方は、ぜひ☆

京都から伸びる街道の入口に大善寺のお地蔵さんが1体ずつ安置され、六地蔵めぐりの風習が生まれました

さて、京都の東山、四条と五条の間に、かつて鳥辺山と呼ばれた場所に「六道珍皇寺」があります。
平安時代は墓所の鳥辺山の麓でその入口付近に位置したことから「六道の辻」と呼ばれ、冥界との境界だと信じられていました。
お盆に冥界から戻ってくる精霊は、必ずここを通るとされてきたため、精霊を迎えるため、京都の人々はこの寺にお参りする習慣ができたといいます。

六道の入口である「六道の辻」に立つ六道珍皇寺

また、六道珍皇寺には冥界に通じている井戸があり、平安時代、役人であった小野篁がこの井戸を通じて、冥界とこの世を行き来していたと言われています。
昼間は朝廷で官吏を、夜間は冥府で閻魔王のもとで裁判の補佐をしていた、と。日々ダブル ワークをこなすパワフルな人として知られています。 冥界へ通じている井戸は今もあるので、参拝がてら見学に行かれるのもいいかと思います。

六道の辻に六道珍皇寺
人は亡くなると、十王の裁きを受け、六道のうちのどれかの世界に転生する。六道珍皇寺には閻魔王がおり、ここが六道の入口
六道珍皇寺には冥界に通じる井戸があり、小野篁は、昼は朝廷の官吏として、夜は閻魔王を補佐する存在として、ダブルワークをこなしながら、昼夜を問わず働いた

閻魔王の御朱印も、こちらでいただけます。
1 月16日と7月16日が閻魔王の縁日で、この日に詣って、故人の冥福と自身の無病息災を祈願するといいと言われています。

六道珍皇寺の閻魔王の御朱印

北の葬送地である蓮台野に立つ千本ゑんま堂

京都の葬送地のひとつ蓮台野に立つ千本ゑんま堂

京都の「千本ゑんま堂」は、先ほどの小野篁が、京都のもうひとつの葬送地である「北の蓮台野」に建てたお寺です。
小野篁は、盂蘭盆のルーツとなる「精霊迎えの法」を閻魔王より授かります。これは、現世を浄化するために、卒塔婆を用いて亡き先祖を再びこの世に迎える供養の作法です。

それを教える根本中堂、つまりセンターが、千本えんま堂です。
このあたりの葬送の地である蓮台野には、石仏や卒塔婆が無数にあったことから、このあたり は「千本」と名付けられ、寺名も「千本ゑんま堂」となりました。
毎年6月の1ヶ月間、閻魔堂の閻魔王がご開帳されます。

ご開帳された千本ゑんま堂の閻魔王

そして、この千本ゑんま堂にも、やはりお地蔵さんがいらっしゃいます。本堂の裏にまわると、六地蔵が鎮座していて、その背後には無数のお地蔵さん。

千本ゑんま堂の本堂の背後にまわると、六地蔵をはじめとする無数のお地蔵さんがいる

ほか、京都の3大狂言の一つである「千本ゑんま堂大念佛狂言」がおこなわれるお寺としても有名です。

以上のように、六道の入口にはお地蔵さんがいらっしゃり、そもそもお地蔵さんは私たちのそばに寄り添っているためにいたるところにいらっしゃり、閻魔王は地蔵菩薩の化身でもあるので、閻魔王を祀っているお寺には、お地蔵さんがいらっしゃいます。

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