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#443 親子関係を否定したいときもあるのです

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:親子関係を否定したい 】

今日はかなりショッキングなタイトルです。「親子関係を否定したい」なんて,そうやすやすと言っちゃダメです。

でも,そういう場面って,あるんです。

法律は,あらゆる人たちに適用されます。普通の場面だけ想定していても,法律の役割としては不足します。

「親子関係を否定したい」

そういう場面も想定しておかなければいけないのが,法律の役割です。

今日これからお話することって,どういう場面なのか,まずお伝えします。

そもそも,結婚している女性が出産した場合,生まれた子どもの母親が誰なのかは,一目瞭然です。

出産した女性こそ,生まれた子どもの母親です。

(産んだ女性が生まれた子どもの母親である,という図式は,代理母出産の場合に崩れてしまいそうですが,代理母であったとしても(つまり,卵子を提供した女性が出産した女性とは別だとしても),出産した女性が法律上母親である,と日本の法律では解釈されます。したがって,代理母出産であっても,出産した女性=母親という図式は崩れません。)

子どもを産んだ女性が,生まれた子どもの母親である。

このことは,あえて説明するまでもないと思います。

じゃあ,父親は誰なのでしょうか。

これは,生まれた子どもや,その母親をどれだけ注意深く観察しても,わかりません。

父親は,精神的に母親を支えたり,出産を控えた母親の身の回りの世話をいろいろとするべきだとは思いますが,純粋に生物学的な観点から観察すると,出産に関して,父親の関与はゼロです。

だから,子どもが生まれた場合に,その父親が誰なのか,当然には明らかではありません。

ただ,「当然には明らかでない」とはいえ,いつまでも生まれた子どもの父親が不明のままだといけないので,日本の法律では,子どもを出産した女性が,ある男性と結婚している場合,生まれた子どもは,母親を夫の子どもであると「推定される」ことにしました。

「推定される」というのは,「一応そのように認める」という意味です。

夫が父親であることを覆すような事情がない限り,生まれた子どもの父親は母親の夫であると認めるのです。

この「推定」が,実際問題として,どういう意味があるかというと,生まれた子どもは,母親が夫を筆頭者とする戸籍に入籍している場合,その戸籍に,夫の子どもとして,つまり,生まれた子どもの「父」の欄に夫の名前が書かれて入籍する,ということを意味します。

母親が筆頭者の場合も,その母親の戸籍に,夫の子どもとして,つまり,生まれた子どもの「父」の欄に夫の名前が書かれた状態で,入籍します。

これが,「推定される」ということです。

出生届を市役所に提出して,生まれて初めて子どもの戸籍が作られる際に,産んだ女性の夫が,「父」の欄に記載される。これこそ,「推定される」の意味です。

そして,僕も含め,多くの場合,そのまま何も起きません。

「父」の欄に何か変化が起きることなく,ほとんどの人が死んでいきます。

しかし,あくまで「推定」なので,真実は違うこともありえます。

つまり,生物学的な父,もっと直接的に言えば,生まれた子どもの元になった精子を提供した男性が,産んだ女性の夫とは違うこともあり得るわけです。

そうなると,「推定」をそのままにしておくわけにはいきません。

生まれた子どもの父親(精子提供者)が夫ではないのであれば,夫の子どもとして登録されている戸籍(生まれた子どもの「父」の欄に母親の夫が書かれている戸籍)を訂正する必要があります。

こういう場合に,戸籍を訂正する方法が,「嫡出否認(ちゃくしゅつひにん)」と呼ばれるものです。

夫が,嫡出否認の訴え(=訴訟)を提起し,その訴えの中で,生まれた子どもの父親が夫ではないことが証明されると,嫡出否認の判決が出て,その判決を市役所に持っていくと,生まれた子どもの戸籍に「父」として書かれていた夫の名前が削除されます。

削除されると,その子どもは,法律上,父親が存在しなくなります。

法律上の父親を戸籍に記載するためには,思い当たる男性に対して,認知を請求することになります。

思い当たる男性が認知に応じてくれたら,その男性が,新しく戸籍の「父」の欄に記載されます。

認知に応じてくれない場合は,認知の訴えを提起し,その男性が父親であることを証明できれば,認知の判決が出ます。その判決を市役所に持っていけば,夫の名前が削除されて以降空欄となっていた「父」の欄に,その男性の名前を書いてくれます。

こういう経過をたどります。いったん,夫の子どもとして戸籍に登録された子どもが,本当は夫の子どもではなかった場合には。

しかし,嫡出否認をするかどうか,つまり,自分の子どもであることを否定するかどうかは,夫次第です。

別に,自分の子どもであることを否定しなくてもいいのです。

まあ,多くの男性は,自分以外の精子が妻の卵子と受精して生まれた子どもの父親であることを否定したいと思うでしょうが,そうは思わない男性がいてもいいです。

妻が,自分以外の男性と性行為に及び,その結果受精して生まれた子どもであっても,せっかく生まれてきたのだから,自分の子どもとして育てる,という男性の思いは一概に否定することはできないでしょう。

そして,いちばん重要なポイントがあります。それは,父親であることを否定するという嫡出否認には,「子どもが生まれたことを知った時から1年」という制限時間があることです。

生まれたことを知ってから1年以内に嫡出否認の訴えを提起しなければ,それからずっと,父親であることを否定することはできません。

だから,例えば,妻が出産して3年後に,生まれた子供が自分の子どもではないと夫が気づいたとしても,自分が父親であることを否定することはできません。

3年間も,妻が不倫した結果生まれた子供を養育してきたこと,そして,その子どもとの親子関係を否定できないこと,この両方に直面した夫のショックたるや想像を絶しますが,でも,法律上,父親であることを否定できないのです。

「子どもが生まれたことを知ってから1年」という制限時間があるからです。

この制限時間,かなり短いと思えますが,これは,子どもの福祉を目的としていると考えられています。

制限時間が長ければ長いほど,より長い期間,生まれた子供は,法律上の父親を失うリスクにさらされるわけです。

法律上の父親を失うと,父親から養育を受けることができなくなります。

もっと直接的に言えば,養育費を受け取れなくなってしまいます。養育費を請求できるのは,あくまで,法律上の父親だけです。

仮に生物学的には父親でなくても,法律上の父親であれば,養育費の支払義務があります。

法律上の父親を失うというのは,養育費を失うことを意味します。これが子どもにとって大きな不利益なので,夫が父親であることを否定できる制限時間を,かなり短めの1年にしているのです。

夫としては,妻の不倫が発覚したうえ,父親であることすら否定できず,めちゃくちゃムカつくと思います。

ただ,制限時間を設けているということは,生物学的な父親と法律上の父親が違うことは,法律では当然に想定されています。

制限時間を過ぎてしまったら,法律上の父親であることを否定できなくなってもいい,と法律は考えているわけです。それが,子どもの利益となるから,という理屈です。

ただ,どんな場合でも,法律上の父親の父親であることを否定する道を閉ざしてしまうのはいかがなものか,という問題意識が昔からあって,判例が積み重ねられてきました。

その結果,客観的に,生まれた子供の父親でないことが明白である場合,例えば,刑務所に入所している間に妻が妊娠して出産したケースや,夫が性交不能のケースなどの場合は,そもそも,先ほど書いた「推定」がない,という理論が確立しています。

生まれた子供には,夫の子どもと「推定されない」ので,生まれた子供を「推定が及ばない子」なんて呼んだりします。

生まれた子供が「推定が及ばない子」と認められれば,推定を前提とした「嫡出否認」ではなく,「親子関係不存在確認」という手続で,父親であることを否定することができるのです。

親子関係不存在確認には,制限時間はありません。何年経とうが,父親であることを否定できます。

ただ,「推定が及ばない子」の範囲がめちゃくちゃに狭いです。

先ほど書いたような,刑務所に入所していてどう考えても夫が精子を提供できないとか,夫が性交不能だとか,誰が見ても明らかに夫の子ではない,というケースに限って,「推定が及ばない子」と認められます。

だから,DNA鑑定の結果,生物学的には夫の子ではないことが確認されても,ダメです。

それだけでは,「推定が及ばない子」には該当しません。

「そもそも,生物学的な父親と法律上の父親が違う事態は当然あり得る」のが,法律のタテマエです。だから,生物学的な父親が違うことを理由に親子関係不存在確認訴訟を提起しようにも,「生物学的な父親と法律上の父親が違うことは想定の範囲内です」という理屈で跳ね除けられてしまいます。

じゃあ,制限時間を過ぎて自分の子どもではないと気づいた夫はどうすればいいのか。

僕自身は経験がないのですが,親子関係不存在確認の「調停」を提起し,調停で話し合いがつけば,「合意に相当する審判」を出してもらって,その審判書を市役所に持っていくと,「父」の欄から削除してくれるようです。

ただ,調停は話し合いですから,相手と合意する必要があります。父親であることを否定したい夫としては,それを優先するのであれば,当然,相手(妻)の要求を大幅に飲まなければいけなくなります。

夫としては,不倫した妻に対し,当然ながら慰謝料を請求したいでしょうが,父親であることを否定するのを最優先に考えるのであれば,慰謝料の減額に応じざるを得ないかもしれません。

なぜなら,調停が不成立となってしまえば,父親であることを否定できなくなってしまうからです。刑務所に入っていたとか,性交不能とか,そういった極端なケースであれば,裁判で父親であることを否定できるでしょうが,そうでもない限り,裁判で父親であることを否定することはできません。

不倫されたにもかかわらず,めちゃくちゃ弱い立場になってしまうのです。

夫としては踏んだり蹴ったりですが,これが法的な結論です。

【 まとめ 】

今日も,昨日に引き続き,かなり暗い話題となってしまいました。

妻が生んでくれた子どもを,自分の子どもかどうかなんて疑いたくもないですが,もし仮に自分の子どもでないとしたら,父親であることを否定できるのは,生まれてから1年以内です。

それが過ぎてしまえば,父親であることを否定できなくなります。

僕はまだ未婚ですが,結婚するなら,絶対に不倫しない人,もしくは,仮に不倫されたとしても諦めがつく人がいいなと思いました。

(そんな人,いるのかなぁ・・・・)

それではまた明日!・・・↓

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