#143 利益相反取引と分配可能額ー②

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,「利益相反取引」といいながらも,株主や株式についてばかり書いてしまいました(笑)。まあ,会社法ってそういうもんです。会社の持ち主が株主で,「持ち主」という言葉を用いることができる最たる(というか唯一?)理由が「株式」ですから。株主は,株式を持っているから「株主」と呼ぶことができ,なおかつ,会社の持ち主と呼べるわけです。

さて,もう少し株主や株式について書いてみたいのですが,そもそも,株主はお金を会社にあげる代わりに株式を受け取るのはいいんだけど(「株主を受け取る」といっても,なにかモノをもらうわけではありません。株券のような紙を発行している会社もありますが,株券発行が義務づけられてはいません。じゃあどうなっているかというと,「株主名簿」というものがあって(これは法律上の用語です),ここに株主の名前が書かれるんですね。それで,自分が株主になったことが確認できる。でもまあ,僕がよく見るのは税務申告書に添付されている決算書ですね。決算書には,株主に関する事項を記載する欄があって,そこに株主の氏名・住所と,持株数が書いてあります),株式を受け取ったとして,それが株主にとって何のメリットがあるのか,ということですよね。

「メリット」は,株主の「権利」とも言い換えられるのですが,これから書くような権利を受け取れるからこそ,株主は,渡したお金は返ってこないとわかっていながらも,会社にお金を渡しちゃうわけです。

株主の権利は,よく,「自益権」と「共益権」に区別して書かれていますが,この言葉だけ知っても全く意味がないので,わざわざ区分けする必要があるのかとも思いますが,まあ,ちょっと説明します。

「自益権」というのは,いわば,お金もらえるという権利です。

「あれ?渡したお金は返ってこないんじゃないの?」と思われる方もいるかもしれませんが,確かに,渡したお金は戻ってきません。しかし,それとは別でお金をもらえるんです。「剰余金の配当」と「残余財産の分配」というお金をもらえるんですね。

めちゃくちゃ難しい言葉が出てきましたが,「剰余金の配当」というのは,「分配可能額」の話に大きく関わってくるので,説明しますね。

「剰余金の配当」は,言葉通り読むと,「剰余金」を「配当」することです。「剰余金」も,言葉通り読めば「余っているお金」ですね。「配当」は「配ること」です。だから,「剰余金の配当」は,言葉通り読むと,「余っているお金を配ること」です。そして,法律上の意味も,まあ,そういったところです。

こう書くと,「余っている」ってどういうことだ?「余っているお金」というのは「会社に余っているお金」のことだろうけど,会社に余っているお金なんてあるのか?と疑問に思う方もいるでしょう。そのとおりですよね。「余っている」かどうかの判断は,人それぞれなわけで,何をもって「余っている」と考えるべきかどうかは,当然問題になります。「会社に余っているお金なんてない!」と思う人もいれば「たくさんお金が余っている!」と考える人もいるわけです。

この「余っているかどうか」を判断する基準が「分配可能額」なんですね。「分配可能額」も,よくよく言葉を見てみると,「分配が可能な金額」と分解できます。法律上は,「分配可能額」のぶんは余っていると考えられているわけです。

でも,「分配可能額」という言葉をもっとよく考えてみると,分配が「可能」なだけで,分配可能額のぶんを全額分配しなきゃいけない,とはなっていません。分配可能額のぶんは余っているんだけど,いざ,その金額のうちどれくらいを分配するかどうかは,別の話なんです。あくまで「可能額」なので。分配「実行額」は別途決めるということです。

で,実際に分配をいくらするか,というのを決めるのは,株主総会です。この株主総会も,株主の権利を行使できる場なんですね。↑で書いた「共益権」の話に入りますが,この株主総会で株主は投票することができるわけですが,その投票権が「議決権」です。投票で賛成多数にならないと,分配をいくらにするかは決まらないんです。逆から言えば,賛成多数となった金額だけ,会社は株主に分配しなきゃいけないのです。

他にも株主総会で決めることはいろいろとあって,例えば,取締役を誰にするかも,株主総会で決めます。取締役というのは,株主が会社の経営を任せる人のことですね。取締役を誰にするかによって,当然,会社の経営方針は変わってくるわけですが,取締役を誰にするかも,株主総会で賛成多数とならないと決まらないのです。

なんかこう書いてくると,株主って,結局自分の利益を追求するために動いていることがよくわかると思います。「利益」というのが「剰余金の配当」だったり「残余財産の分配」だったりするわけですが(「残余財産の分配」というのは,最後に会社をたたむときに,借金や従業員の給料を全部払ってしまったあとに残った財産=残余財産を全部もらうということです),株主としては,そういった自分の権利として認められている「お金もらえる権利」を,なるべく多額のお金をもらえる形にしたいわけで,そのために,株主は,株主総会で,自分の好きな(自分にとってい最も金銭的に利益を与えてくれそうな)取締役に経営を任せたり,剰余金の配当が少なくなりそうな場合にノーを突きつけたりすることができるのです。

株主は,こういうことができるから,渡したお金そのものが返ってこないとわかっていながらも,会社にお金を渡すんです。株式をもらってしまえば,渡した金額以上のお金が結果的に返ってくると考えて(株式をもらうことで,払った金額以上のお金が返ってくるように株主自ら働きかけることもできるようになるし),お金を渡すのです。

ざっと,株主と株式というのは,こういうことです。会社は,株主の利益のために存在しているということが,少しでもわかっていただけたら嬉しいです。

しかし,会社は株主の利益のために存在しているとはいえ,実際問題,会社を経営しているのは,取締役,というか代表取締役です。代表取締役が,毎日毎日,ビジネスの決断をしています。そして,昨日書いたとおり,代表取締役が了承していれば,取引はやっていいんです。株主としても,会社の経営は,取締役,そして取締役たちが選んだ代表取締役に任せているので,代表取締役が了承した取引はどんどんやっていいと考えています。

しかし,株主と取締役の利益が相反する取引があるのです。例えば,一番わかりやすい例でいえば,会社が代表取締役に土地を売る場合です。これ,会社にとっては,なるべく高い値段で土地を売りたいのですが,買う側の代表取締役としては,なるべく安く土地を買いたいと考えますよね。

このように,土地を高く売りたい会社(株主)と土地を安く買いたい代表取締役の利益が対立する場合にも,「代表取締役には決済権限があるから!」で押し通していいのか?というのが利益相反取引の問題意識で,法律上は,代表取締役の決済権限だけでは足りないとされていて,歯止めがかかっています。これが,利益相反取引の話です。

あと,分配可能額についてもじっくり考えてみたいとも思います。実は,分配可能額については,(僕の中で)めちゃくちゃ有名な司法試験の問題があって,それは,平成23年(2011年)の民事系第2問です。僕が,平成27年合格の69期なので,僕の4年先輩=65期の弁護士が合格した司法試験の問題です。

(弁護士・裁判官・検事など,司法試験に合格した人たちは,合格後に実施される「司法修習」という研修の「修習期」で先輩後輩を判断します。こういうの,日本っぽいですよね。こういう縦割り社会(官僚社会)が日本を太平洋戦争に突き進めたと思う。こちら参照。)

この問題は,「貸借対照表を見て分配可能額はすぐに算定できる(その他資本剰余金+その他利益剰余金=分配可能額)」ことが「基本的知識」とされていて,全俺が「ふぁっ!?」となったので,非常に思い出深いです。分配可能額について規定した条文は確かにあるのですが,その条文には,「その他資本剰余金+その他利益剰余金=分配可能額」とは書いてありません。その代わりに,とんでもなく複雑怪奇な書きぶりになっています。せっかく会計を勉強したので,本当に「その他資本剰余金+その他利益剰余金=分配可能額」になるのか,条文の書きぶりと僕の稚拙な会計知識を照らし合わせながら確かめてみたいと思います。

いやぁ,めちゃくちゃ大変そうですが,ちょっと頑張ってみます。

それではまた明日!


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