#124 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑩

昨日のブログ(こちら)の続きです。

昨日は,ガソリンスタンドの判例について,事案と問題点を説明したところで終わっていました。

ガソリンスタンド判例の事案は,4人兄弟同士のケンカで,少数派となった2番めの男の子(弁護士)が,ガソリンスタンドの運営に不可欠な土地を売却してしまった,というものでした。

この土地は,弁護士の所有で,4人兄弟で作ったガソリンスタンド運営会社に貸していて,その土地の上にガソリンスタンドの建物があったわけです。

しかし,「土地」とひとくちにいっても,実はその土地は2つありました。道路に面している土地と道路に面していない土地の2つです。そのうち,道路に面していない土地の方にだけ建物が建てられていました。その建物は,土地を借りている会社の所有物で,会社名義で登記されていました。

そうすると,土地の上に建物のある,道路に面して「いない」土地のほうの借地権については,土地を売られても,新しい土地所有者に借地権を主張できる=立ち退かなくてもいいわけです。「土地の上に登記された建物を所有する」という対抗要件を備えているからです。

しかし,土地の上に建物が「ない」,道路に面して「いる」土地のほうの借地権は,借地権を主張できない=立ち退かなきゃいけない,となるはずなんです。対抗要件を備えていないから。

この判例が出る前は,最高裁も,「土地の上に登記された建物を所有していることが借地権の対抗要件になる」という借地借家法の決まりは,「その建物の「所在」欄に記載された土地だけだよ」と明言していました。

つまり,ガソリンスタンド判例の事案でいうならば,会社名義の建物の登記事項の「所在」欄に書かれている土地=道路に面していない土地の借地権だけ,対抗要件を備えたことになるよ,逆にいえば,「所在」欄に書かれていない土地=道路に面している土地の借地権は,対抗要件を備えたことにならないよ=立ち退かなきゃいけない,ということになります。

しかし,このガソリンスタンド判例は,違ったんですね。

建物の「所在」欄に書かれていない土地=道路に面している土地からも立ち退かなくていい,と判断したんです。

実は,このガソリンスタンド判例は,最高裁に上がる前の高等裁判所段階では,土地の上に建物がない土地=道路に面している土地の借地権は,対抗要件が備わっていないから,立ち退かなきゃいけない,と判断していました。

でも,最高裁は,その高等裁判所の判断が間違っていたと言いました。

じゃあ,その理由はどうしてなのか?というのが気になるところですよね。

結構,難しい話で,わかりやすく説明するのが大変なんですが,僕が着目したいのは,「一体的な利用」というところです。

あの,また当たり前の話ですが,何かモノを買うときは,そのモノの現物を見たいですよね?

今は,ネット通販が流行して,現物を見ることなくモノを買う機会も増えていますが,それは,現物を見るための手間や時間+現物を見て買う場合の価格と,現物を見ることなく買えることで手間や時間を省けるメリットとイメージと異なる商品が届くリスク+ネット通販価格を比べた上で,現物を見ないで買うほうが得だと考えた結果,ネット通販での購入を決意しているわけですよね。

でも,買う「モノ」が土地だったらどうでしょうか?土地の価値は,場所の価値です(当たり前ですが)。だから,どんな場所にあって,周りには何があるのか,そういった周辺環境を実際に見ることで,その土地がどれくらいの収入を生み出せるのか,という土地の商品価値を確認する必要があります。

だから,普通,土地を買おうとする人は,その土地の現地に行きます。

で,このガソリンスタンドの事案で言えば,買おうとする2つの土地を見に行ったら,2つの土地が一緒にガソリンスタンドに使われていることがわかるわけですよね。確かに,建物が建っている土地は,その2つの土地のうち,一方だけかもしれないけど,もう一方の土地は,給油所として使われていることが,目で見ればすぐわかります。

このガソリンスタンドの判例の文章の中でも,2つの土地がガソリンスタンドのために「一体的に利用されている」こと,そして,その一体的な利用状況を,土地を買った人も,買う前に「認識していた」と書かれています。

つまり,2つの土地は,ガソリンスタンドの敷地として一体的に利用されていて,なおかつ,買った人も,その一体的な利用状況を知っていて買ったのです。

土地を買った人も,弁護士が土地を会社に貸していることは,その弁護士から聞いていたのですが,それが借地借家法の適用される「借地権」じゃないと説明されていました。

というのも,弁護士は「タダで貸している」と説明していたんですね(本当は借地料をもらっていたのですが)。「タダで貸す」場合は,借地借家法が適用されませんので,民法の原則に戻って,「賃借権設定登記」が借地権の対抗要件となります。で,この事案では,「賃借権設定登記」はされていなかったんです。

土地を買った人は,まあ,この弁護士に騙されたことになりますね。借地料をもらっていながら,「タダで貸している」という嘘をつかれたわけですから。

で,話を「一体的な利用」に戻したいのですが,ここを強調したいのですが,この判例って,「一体的な利用があれば対抗要件いらないよね」と判断したものじゃない,ということです。

事案を表面だけなぞると,

・2つの土地があって

・両方がガソリンスタンドの敷地になっていて(一体的な利用状況)

・ガソリンスタンドの建物があるほうは借地権の対抗要件を備えている=立ち退かなくていい

・ガソリンスタンドの建物がない方も立ち退かなくていい

という話なんですが,とはいえ,「2つの土地を一体的に利用していれば,それだけで,借地権の対抗要件を備えていない方も,立ち退かなくていい」とはならないと僕は思っています。

難しい言葉で言えば,「必要条件だけれども十分条件じゃない」のです。

ちょっと説明すると,もちろん,2つの隣り合う土地が売られ,新たな土地所有者から立ち退きを求められた場合に,片方の土地は借地権の対抗要件を備えていて立ち退きは回避できるけれども,もう一方の土地は対抗要件を備えていないのであれば,その対抗要件を備えていない方の土地の立ち退きを回避するためには,対抗要件を備えている方の土地との「一体的な利用」というのが,必要になってくるでしょう。

こういう意味で,「一体的な利用」は必要条件だとは思います。

でも,このガソリンスタンド事案は,「一体的な利用」だけで,立ち退きを回避したわけじゃないんですね。「一体的な利用」だけで,立ち退きを回避できるのであれば,「一体的な利用」だけ説明して終わればいいんですが,他にもいろいろと説明を加えています。だいぶ端折りますが,こんなことが書かれています。

・土地を買った人に将来の具体的な土地利用目的がない

・土地を買った人は「営利法人」なんだから,「タダで貸している」という弁護士からの説明を信じたことには落ち度がある

・道路に面している土地の上にもポンプ室があったが,それを登記していないのもやむを得ない

こういう事情が書かれているんですね。

こういう事情を付け加えて,「一体的に利用」している,道路に面している土地(対抗要件を備えていない土地)の立ち退きを求めることはできない,と結論づけています。

こういう書きぶりをみると,「一体的な利用」があれば,対抗要件なくても大丈夫!なんてことを言っているとは全く思えないんですね。

「一体的な利用」を前提に,借主側の事情と新しい土地所有者側の事情を勘案して,立ち退きを認めるかどうか,ケースバイケースで判断する,ということを言っているだけだと思います。

で,僕が気になるのは,これが「ガソリンスタンド」という話なんですよ。

対抗要件を備えていない方の土地は,地中にガソリンタンクが埋められていて,しかも,給油所になっています。こんな土地から立ち退かなきゃいけなくなったら,ガソリンスタンドなんて営業できません(笑)。

ガソリンタンクも給油所もなしに,どうやってガソリンスタンド続けるんだよ(笑)という話です

だから,この事案は,「一体的」がめちゃくちゃ「一体的」なんです。

ものすごーく「一体的」

これ,すごく大事なところだと思います。

僕も同じような事案を経験していて,その事案では,まさに,このガソリンスタンド判例と同じで,2つの土地を借りていて,片方の土地の上には建物があって,もう片方には建物がないのです。

その「建物」というのは病院で,もう一方の土地は,病院の駐車場として使われています。

だから,2つの土地が一体的に利用されているのは,僕が経験した事案も同じですね。

病院の建物の敷地と病院の駐車場ですから。一体性はあります。

でも,ガソリンスタンドの事案と比べると,「一体的」の程度が低い。

世の中には,駐車場のない病院なんていくらでもありますから。別に隣に駐車場なんてなくても,病院は営業できます。ガソリンタンクと給油所を失ってしまったガソリンスタンドとはわけが違う。

もちろん,隣の駐車場を失ってしまうと,病院としても大変だとは思います。駐車場があることで,集客できているでしょうから。でも,駐車場を失ったからといって,病院を運営できなくなるわけじゃない。近くの別の駐車場を借りることもできます。

そう考えると,僕が出会った事案は,ガソリンスタンド判例とは違って,借主側が負けちゃうと判断しました。

で,もうひとつ大事なのが,「権利濫用」の話です。

ガソリンスタンド判例は,「権利濫用」の判例なんですね。

これまで,ずっと借地権の対抗要件の話をしてきましたが,「借地権を主張できるから立ち退かなくていい」という理屈じゃないんです。「立ち退きを求めるのは権利濫用だから立ち退かなくていい」という理屈なんですよ。

結論が一緒だからいいじゃないか!とも思われるかもしれませんが,結論が一緒なのは,立ち退きを求める場面だけです。

結局,この事案では,新しい土地所有者は立ち退きを求めたものの,それが失敗したわけですから,今後,土地を貸し続けるしかありません。その土地の貸し借りには,前の契約がそのまま引き継がれるわけじゃないんですね。

なぜなら,「借地権が主張できる」という理屈じゃないからです。「借地権が主張できる」という理屈であれば,前の契約で設定された借地権がそのまま引き継がれるということになりますが,そうじゃなくて「権利濫用」という理屈なので,新しく契約する(借地料を決める)ことになります。

こういうのが,法律って難しいところかもしれません。

今日は時間がきましたので,ここまでにします。

それではまた明日


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