#88 農地と相続ー①

土地を売ったり買ったりしますよね。

ただ,その土地の「地目」っていう欄,気にしたことありますか。

まあ,普通はあんまり気にしないです。

というか,「地目」って何なのかというと,また不動産登記の話ですが,そもそも,本来は,あらゆる土地がつながっているわけですが(川や山などの地形に沿って土地が分けられることはありますが,土地の上に境界線が引かれているわけではありません。),それを法務局の管理する「不動産登記」によって,他の土地と区分けしているんですね。

どの土地も,「所在地」と「地番」で他の土地と区別されています。

例えば,「所在地:東京都港区青山1丁目,地番:1番1」みたいな感じです。この所在地と地番が「不動産登記」に登録されているんですが,この所在地と地番だけじゃないんですね,登録されているのは。

「不動産登記」というのは,言ってしまえば,あらゆる土地に「名前」を付けて,その土地を他の土地と区別した上で,その土地の所有者が誰か,その土地に誰か担保を付けていないか,というのを記録して,その記録を誰でも見られるようにしているシステムなんですね。

で,土地の「名前」なんですが,↑では,「所在地」と「地番」で他の土地と区別すると書きましたが,「名前」はこれだけじゃないんですね。土地の「名前」が書かれている欄は「表題部」と呼ばれているんですが,その「表題部」には,所在地と地番のほかに,「地目」と「地積」というのも書かれています。「地積」というのは,その名の通り,その土地の面積です。「地積」の欄には,「〇〇㎡」という形でその土地の面積が書かれています(なお,土地の面積は,一般的には「坪」という単位を使いますが,↑のとおり,不動産登記上は「㎡」で表示されています。なお,坪と㎡の変換方法は,「1㎡=0.3025坪」というのが,わかりやすく正確です。不動産登記に書かれているのは㎡単位ですから,不動産登記上の面積に0.3025を掛ければ,坪単位の面積を求められます。例えば,100㎡の土地は30.25坪です。逆に,100坪の土地は約330㎡です(100㎡÷0.3025)。とはいえ,不動産登記上の面積は結構不正確な場合もあります。というのも,面積が小さいほど税金は安く済むので,不動産登記上の面積が実測面積より小さいなんてことはよくあります。)

ちょっと面積について熱く語ってしまいましたが,本題は「地目」です。

これは,「土地の目的」のことです。「目的」って何かというと,「その土地をどう使うか」ということですね。「使用目的」です。

「地目」にもいろいろあって,例えば「宅地」です。これは,家を建てる用の土地ということですね。他にも「雑種地」なんてのもあります。

で,やっと本題ですが,その地目に「田」や「畑」というものがあります。これが「農地」と呼ばれるものですね。地目だけで農地かどうかを判断するわけではありませんが,基本的には地目農地かどうかを判断します。地目の欄に「田」や「畑」と書いてあったら,その土地は「農地」ということになり,「農地法」という法律が適用されることになります。

「農地法」という法律が適用されるとどうなるかというと,売ったり買ったりが制限されます。

土地を自由に売ったり買ったりできなくなるんですね。

土地を売ったり買ったりするのに,普通は制約はありません。土地を持っている売主と土地を買いたい買主との間で購入代金について合意できれば,後はその代金をいつどうやって払うかを決めてしまえば,土地の売買はできます。

でも,農地を売ったり買ったりする際は,売主と買主の合意だけじゃだめなんですね。

それだけだと,不動産登記を管轄する法務局が土地の名義を変えさせてくれません。

じゃあ,何が足りないかというと,「農業委員会の許可」が必要になります。

つまり,農業委員会が許可した場合に限って,農地を売ったり買ったりできるわけです。

「なんで許可なんて必要なんじゃあ!」という疑問が当然出てくるわけですが,「農地法にそう書いてある」だけじゃつまらないので,ちょっと説明すると,農地法はとにかく小作農を嫌います。「小作農」というのは,「自分で土地を持っていない農家」のことです。「小作農は自分で土地を持っていないせいで,土地を借りて農業をやるしかない。そうすると,地主が高額の小作料を取り立ててしまい,小作農はかわいそう!小作農は絶対ダメだ!」というのが農地法の根底に流れています。だから,農地が誰か1人に集まってしまい,また小作農が出現しないよう,農地の売買には農業委員会の許可を必要としているんです。

ここからは,ちょっと僕の勝手な妄想なんですが,農地法って,太平洋戦争後の農地改革で制定されたものです。GHQの占領下で,「かわいそうな小作農を救い,民主的な農家を育成する!」という大義名分の下農地解放が始まったわけですが,実際は,その大義名分に隠された真の目的があったと思うんです。

やっぱり,地主って,農地を所有して食料を生産しているわけですから,力を持っています。人間は食べないと生きていけないわけですから。このような力を持った地主って,GHQからすれば邪魔だったんだと思います。だとすると,農地解放には,地主を弱体化させて,GHQに反抗する勢力が出てこないようにする意味もあったと思います。というか,おそらく,戦前の日本政府の支持基盤は地主だったでしょうから,前政権支持層から財産を奪って,GHQの対抗勢力を駆逐するする意味もあったんだと思います。

もうめちゃくちゃ脱線しましたが,結局,農地法に「農地の売買には農業委員会の許可が必要である」と書いてあるので,農地の売買には農業委員会の許可が必要なんです。

じゃあ,「どうやったら許可を出してくれるんだ」という疑問が浮かんでくるわけですが,それも,農地法にはこまごまと書かれていて,ここで逐一説明しても意味ないので,ざっくり説明すると,「農家に売るなら許可するよ」ということです。

農業委員会は,買主=新たな持ち主が農家なら,農地の売買を許可します。この「農家」には,自分で自営業として農家を営んでいる人だけでなく,「農業従事者」といって,自営業として農家を営んでいるわけではないけれども,1年間のうちで結構な時間を農作業に割いている人も含まれます。

ざっくりいえば,「農家に売るなら許可する」のです。

農地法がこういう仕組みになっていると,単純に「農地って名義変わらんもんなぁ」と覚えてしまう方がいます。「農地は農家又は農業従事者じゃないと名義変えられない」という知識だけあると,ちょっと困ったことが起きます。

相続のときです。つまり,農地の持ち主が亡くなったけれども,その相続人の中に誰も農家又は農業従事者がいない場合,「農地を誰の名義にすりゃいいんだ?」という疑問が出てきます。「農地は農家にしか名義変えられない」だと,相続人に農家がいないわけですから,いつまでも農地の名義が亡くなった人のままになってしまいそうです。

この問題については,農地法に書いてあるんですね。「遺産分割の場合は農業委員会の許可は不要」と農地法に書いてあります。

「じゃあ,相続の場合は農業委員会の許可は不要だから安心だ!」

という知識で終わっちゃう人がいるんですが,これは半分しか正解していません。

しばしば,「農地は,売るんだったら農家にしか売れないけど,相続だったら農家じゃなくても名義変えられる」という知識が蔓延していますが,これは,正確じゃない。

それは,「相続」というのが,2種類あるからなんです。

「遺産分割」と「遺言」です。

そして,「遺言」も「相続させる旨の遺言」と「遺贈」に分かれます。

「相続なら名義変えられる」のだとすれば,「遺産分割」でも「相続させる旨の遺言」でも「遺贈」でも,どれでも名義変えられなきゃいけないはずですが,そうじゃないんですね。

この中には,農業委員会の許可なく名義が変えられるパターンと,売買と同様に農業委員会の許可が必要なパターンが,かなり複雑に入り混じっています。

これを説明するには,遺産分割と遺言に関する知識が必要です。

これは明日説明したいと思います。

ちょっとネタバレすると,農地法で「農業委員会の許可が不要」と定められているのは「遺産分割」だけなんですが,この「遺産分割」の中に,↑の3つのうちどれが含まれるか,という問題が出てきます。

「遺産分割」なんだから,「遺産分割」だけだろ!

とお思いの方,いえいえ,そういう簡単な話じゃないんですね。

これは,↑に書いたように遺言が2種類に分けられるのですが,その話から始めなきゃいけないので,今日はここまでにとどめておきます。

明日は,遺言が2種類に分けられること(「相続させる旨の遺言」と「遺贈」),そして,その2種類の何が違うかというところから始めたいと思います。

それではまた明日。

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