#142 利益相反取引と分配可能額

昨日ブログでは「明日も続きを書くかどうかは明日決めます」と書いていましたが,結局,今日は続きを書かず,全然別のテーマでお送りしようと思います。うってかわって,法律の話をしようと思います。

「法律の話」というワードを見た途端に読むのをやめようと思った方がいらっしゃるでしょうが,そう思わずにお付き合いください。僕自身,(司法試験合格者の中では)あまり法律が得意な方ではないので,理解のレベルはめちゃくちゃ低いと思います。

というか,僕は,中学生が理解できるようなレベルで言語化できないと,全然習熟できないんですよ。つまり,中学生でも理解できるような文章に落とし込まないと,法律の知識が頭に入ってこないんです。抽象的なレベルでは理解できないんですよねぇ,どうしても。昔から国語の成績が悪く,苦手だったのですが,国語の試験に出てくるような難しい文章はよくわからないんです。試験問題になるということは,きちんと論理を追っていてけば設問の答えを出せるような文章になっているんでしょうが,うーん,その「論理」というやつが,僕の理解を軽く超えていて,「もっと簡単に書いてくれよ」といつも思っていました。

このように,僕自身が,難しい論理展開や込み入った文章が苦手なので,法律知識の理解は,中学生レベルまで落とし込んでいるんです。だから,このブログで書く法律の話も,必然的に中学生が理解できるレベルまで下がると思います(そうじゃないところもあるかもしれませんが,そのときはすみません)。

さて,こういう前置きを書いて,本題に入っていきます。題名にもあるとおり「利益相反取引」と「分配可能額」について,これから何日間になるかわかりませんが,書いていこうと思います(僕が書くのは法律の専門家たちから見れば基本的なことです!法律知識の豊富な方は,ぜひ読み飛ばしてください!)。

難しいワードですよね。「利益相反取引」も「分配可能額」も。この2つは,全然関連していないので(とはいえ実は関連しているのですが),全く分けて書いていきます。大学時代は会社法のゼミに所属していたのですが,どういうわけか,この2つが印象に残っているんですよね(とはいえ,何もかも覚えているわけではないので,毎日思い出しながら少しづつ書いていきます)。

まず,「利益相反取引」についてです。

会社法には,「利益相反取引」というものがあります。条文を引用しても難しいだけなので条文は書きませんが,会社法では,「利益相反取引」をしようとするときに,別途特別な手続きが必要になる,というのが,利益相反取引の話です。

これだけでは何を言っているのか全く意味不明だと思いますので,補足しますね。

当たり前ですが,会社というのは,毎日いろんな取引をしています。例えば,トヨタ自動車であれば,毎日たくさんの自動車を売っています。自動車を売るときは,当然,トヨタ自動車が売主になって,買主は,トヨタ自動車にお金を払って,トヨタ自動車から自動車を納車してもらいます。

(まあ,正確には,トヨタ自動車本体ではなく,トヨタ自動車とは別の会社である販売会社(ディーラーとも呼ばれます)が売主になることがほとんどだと思いますが,ここでは,この話は割愛します)

自動車を売るとき,売る側のトヨタ自動車内で,「決済」がなされていますよね。つまり,自動車の販売責任者である店長(販売店の)などが,自動車の販売を了承すること=決済がなされて初めて,トヨタ自動車が売主として,自動車を販売できるわけです。決済する権限のない平社員が,勝手に自動車を売ることはできないんです。平社員が勝手に契約を取り付けて,勝手に自動車を売却しよとしたとしても,「トヨタ自動車が売った」ということにはならないわけです。まあ,当たり前です。

とはいえ,逆から言えば,決済する権限のある人が,自動車の販売を了承していれば,自動車は売れます。これも当たり前です。もっといえば,社長が了承していれば,あらゆる取引が可能です。「社長」とは「代表取締役」のことですね。

「社長」というのは俗語で,法律上の言葉ではありません。だから,極端な話,代表取締役でない人を「社長」と呼んでも構わないっちゃ構わなないのです(まあ,あんまりないでしょうけど)。「代表取締役」というのは,法律上の用語です。これ,「取締役の代表でしょ?取締役のリーダーみたいなもんでしょ?」とか,その程度の意味ではありません。

「代表」というワードが持つ意味は計り知れません。というのも,「代表」というのは「会社を代表する」という意味なんです。つまり,代表取締役が,その会社のビジネスに関連してやったことは,「会社がやった」ことになるんです。「代表取締役のやったことが会社のやったことになる」。これが「代表」というワードの持つ意味です。

で,代表取締役は,その会社のビジネスについて,自分で自由に決めて何でもやっていいわけです。「何でもやっていい」というのは,当たり前ですが,犯罪に手を染めてもいいとか,そういう意味ではありません。代表取締役は,その会社のビジネスを任されている立場にありますから,任されていることを充分に自覚しながらも,自分で自由にビジネスの決断をしていい。

つまり,代表取締役は,その会社のビジネスについて,あらゆる決済権限を持っています。代表取締役が「OK」と言えば,その取引は「会社の取引として」やっていいんです。あらゆる決済権限を持っている代表取締役が了承しているんなら,その取引はやっていいんです。

しかし,これに歯止めをかける制度がいくつかあるんですね,会社法には。

ちょっと基本的な話をしますが,「会社は誰のものですか?」と聞かれた場合,↑のような「代表取締役はあらゆる決済権限を持っている」ことを前提とすると,「会社は代表取締役のもの」と答えたくなります。

でも,違います。会社は,代表取締役のものではありません。↑にも書いたように,代表取締役は会社を「任されている」だけです。「会社を保有している」わけではありません。代表取締役は会社の持ち主ではないのです。

会社の持ち主は株主です。これを間違っちゃいけません。代表取締役は,会社を「保有」しているのではなく,経営を任されているだけで,持ち主は株主なんです。

だから,会社というのは,会社の持ち主である株主にとって最も利益を与えなければならないんです(「株主利益の最大化」とか呼ばれたりします)。極端に言えば,会社というのは,株主がお金を儲けるために存在するのです。

「持ち主は株主」という意味がわからないかもしれないのでちょっと説明すると,会社にも始まりがあります。会社の「設立」というやつです。その「設立」の際,「出資金」がいるんです。つまり,誰かがお金を出さなきゃいけない(というか,これから会社を設立してビジネスを始めるんだから,そのビジネスを始めるために誰かがお金を出すのが普通です)。そのお金を出した人が「株主」です。ここで会社に入ったお金は,会社として返済する義務はありません。そう,株主は,会社にお金をあげちゃうんです。でもそれだけじゃなくって,お金をあげる代わりに株式をもらう。

設立のときだけじゃなく,株主が増える場面があります。「増資」と呼ばれるものです。「増資」は「資本金を増やす」を略したものです。↑にも「資本金」が出てきましたよね。会社が返さなくていいお金が「資本金」です。会社設立後に資本金を増やすのが「増資」なのですが,この場合も,会社にお金をあげちゃう人が出てきて,あげちゃった人が「株主」です。設立時と同じように,お金をあげる代わりに株式をもらうんです。

今日ちょっと時間がきましたので,ここまでにします。なんか,株主とか株式の話で終わっちゃいましたね。会社法の話をしていると,必ずこの話になるのでしょうがないかもしれません。これだけでは,「会社の持ち主が株主」という説明には不十分ですから,明日はそこから始めます。そして,株主と代表取締役の利益が相反するから「利益相反取引」と呼ぶんだよ,という話と,分配可能額の序章を書きたいと思います。

それではまた明日!


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