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#475 刑事事件の示談にも,いろいろと段階があります。

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:刑事事件の示談 】

今日は,刑事事件の示談についてお話したいと思います。

「刑事事件」とは,誰かが逮捕されたとか,勾留されたとか,そういう事件のことです。

正確には,逮捕・勾留されなくても,警察が立件すれば,それも「刑事事件」に含まれます。

逮捕・勾留されない刑事事件を,「在宅事件」と呼びます。

さて,ニュースでは毎日「〇〇容疑者が逮捕されました」と報道していますが,「逮捕」ってめちゃくちゃ大変なことです。

「大変」と書くだけでは大変さが伝わらないと思うので,もう少し説明します。

「逮捕」って,警察署の留置場から帰れなくなることなんです。スマホも触れないし,檻の中から自由に出られなくなります。

取調べも連日行われるし,検察庁へ行ったり,裁判所へ行ったりもします。

もちろん,移動は警察車両なので,逃げるスキはありません。

食事は3食用意されますが,とはいえ,自分が好きなモノを好きなタイミングで食べることもできません。

テレビを自由に見ることもできませんし,寝る時間も自分で決められません。

これが「逮捕」です。もちろん,逮捕するにも条件があって,逮捕できるのは,その条件を満たす場合だけです。

警察が,誰でも逮捕できるわけではありません。

逮捕の条件を満たしているかどうか判断するのは裁判官です。警察は,誰かを逮捕したい場合,裁判官に逮捕状を請求します。逮捕状の請求を受けた裁判官は,警察が逮捕するべき根拠として提出した証拠を見て,逮捕状を出していいかどうか審査します。

逮捕状を出していいと裁判官が判断すれば,逮捕状が出て,その逮捕状を根拠として,警察は容疑者(正確には「被疑者」)を逮捕することができます。

現行犯逮捕及び緊急逮捕する場合は,逮捕状は不要です。

現行犯逮捕なら,目の前で犯罪が起きているので,裁判官が審査するまでもなく,逮捕するべき被疑者を特定できるからです。

緊急逮捕は,犯罪が目の前で行われているわけではありませんが,急を要する場合で,かつ,重たい犯罪に限って,認められています。

ただ,緊急逮捕した後は,逮捕状を請求しなければいけません。そして,逮捕状を請求したものの,裁判官が請求を認めず,逮捕状が出なければ,緊急逮捕した被疑者は釈放しなければなりません。

さて,長々と逮捕の話をしてきましたが,今日のメインは,ここからです。

何らかの犯罪を犯した疑い(=嫌疑)があるからこそ,逮捕されるわけですが,犯罪にも,被害者がいる犯罪と被害者がいない犯罪があります。

被害者がいる犯罪は,傷害罪とか,窃盗罪とか,強制性交罪(かつての強姦罪)とかです。被害者の生命身体・財産・性的自由に対して危害を加える犯罪が,被害者がいる犯罪です。

被害者がいない犯罪とは,代表例は薬物犯です。違法薬物を所持したり,使用したりすると犯罪になりますが,これは,自分以外の誰かに危害を直接加えているわけではありません。

もちろん,違法薬物の取引によって誰かが利益を得て,その利益が,被害者がいる犯罪に使われている可能性はかなり高いです。

とはいえ,違法薬物を使用したり,所持したりしても,少なくとも直接的には,自分以外に危害を加えていません。

だから,こういった薬物犯罪は,被害者がいない犯罪に分類されます。

さて,被害者がいる犯罪と,被害者がいない犯罪で,弁護活動は大きく違ってきます。

被害者がいる犯罪であれば,本人が罪を認めている場合,何よりも優先するべきは,被害者との示談です。

被害者が犯罪を許してくれたり,被害弁償が済んでいたりすれば,先ほど書いたような,「逮捕」の状態からいち早く解放されたり,解放されなくても,最終的に宣告される刑がかなり軽くなったりします。

事案によっては,被害者との示談ができているかどうかが,執行猶予と実刑の分水嶺だったりします。

また,窃盗罪など,財産的な被害を与える犯罪の場合,被害者に生じた財産的な被害が,全額填補されている(被害弁償が全額済んでいる)場合,「被害を与えた」という過去は変えられないものの,犯罪による被害が完全に回復されているので,かなりの減刑が見込めます。

これに対し,傷害罪や性犯罪は,そうはいきません。

傷害罪など,生命身体に被害を与える犯罪の場合,「被害弁償」はあくまで「お金を渡した」だけです。ケガを負って,めちゃくちゃ痛かったとか,面倒な治療を余儀なくされたとか,そういったケガによる負担は,厳密に言えば,お金とイコールではありません。

被害者としても,お金でケガがなかったことにはならない(被害を回復できない)ことは重々承知しているんですが,実際問題,ケガすれば治療費が必要ですし,お金を貰えないよりは貰ったほうがいいので,被害弁償に応じているのです。

だから,傷害罪など,生命身体に被害を与える犯罪の場合,「被害弁償」による減刑の効果は,財産的な被害を与える犯罪よりも,かなり薄いです。

性犯罪もそうです。性犯罪による精神的苦痛は,お金で賠償できるものではありません。被害弁償としてお金を被害者が受け取ってくれたとしても,「被害の回復」とは言えないでしょう。

そして,タイトルにもありますが,被害者との示談には,いろいろと段階があって,「示談」・「被害弁償」とひとくくりにはできないのです。

まず,そもそも,被害者が連絡先を教えてくれない場合があります。

犯罪が起きた場合,犯罪を犯した人に刑罰を与えるためには,裁判所に,その人を起訴して,裁判所が有罪判決を出さなければいけません。

起訴する権限は,この日本では検察官にしかないので,検察官は,起きた犯罪を捜査して,起訴するべきかどうか決めます。

その捜査の際,検察官は被害者も取り調べます。取り調べを行えば,当然,被害者の「取調調書」が作成されるのですが,そこには,被害者の電話番号が書かれています。

だから,検察官は被害者の電話番号を知っています。弁護士は,被害者と連絡をとって示談交渉したいので,検察官に連絡先を教えてくれるように依頼するのですが,検察官から,「教えたくないと被害者に言われました」という理由で,断られることも多いです。

特に,性犯罪の場合です。

僕も,強制わいせつ(路上で女性に抱きついた)3件で逮捕された被疑者を担当したことがありますが,3件のうち,どの被害者も,連絡先を教えてくれませんでした。

示談交渉すれば,当然ながら,お金を貰える可能性があります。お金を貰っても被害の回復にはならないと,先ほど書きました。確かにそのとおりなのですが,とはいえ,お金を貰うことができていない現状よりも,いくらかでもお金を貰えたほうが,経済合理的に考えればマシなはずです。

でも,教えないんです。

これは別に,不思議なことではありません。他でもない自分自身に大きな傷を与えた犯人と交渉するつもりは毛頭ないし,その弁護士とも連絡するつもりもない,という感情にも十分な理由があります。

だから,そもそも,連絡先がわからず,被害者と示談交渉できない,というケースがあります。

仮に連絡先がわかって,示談交渉できたとしても,交渉決裂することもあります。

金額に折り合いがつかない(被害者が提示する金額を用意できない)ケースが典型的です。

この場合は,せっかく示談交渉できているにもかかわらず,示談は成立せず,示談による減刑の効果は発生しません。

とはいえ,被害者が提示する金額を用意できないとしても,用意できた額だけ,被害弁償として受け取ってもらう,という作戦はあり得ます。

そうすれば,「示談」はできていないものの,一定程度の被害弁償ができている,という評価は下ります。

さて,この次のステップとして,全額の被害弁償ができている,というものがあります。

「全額」というのは,どういうことかというと,「もうこれ以上被害弁償を請求しません」という書面に,被害者が署名押印してくれている,ということです。

難しい言葉で「債権債務なし」というのですが,「この書面に書かれた金額以上は,今後請求しません」という約束がなされていれば,被害弁償が「全額」であることの証拠になります。

この段階でも,十分「示談」と評価していいと思いますが,さらに先があります。

それは,被害者が,犯人を「許す」とか,「被害届を取り下げる」という段階です。

「許す」とか「被害届を取り下げる」という書面に,被害者が署名押印してくれていると,これはまごうことなき「示談」です。

かつて,強姦罪は「親告罪」といって,被害者が被害を申告していなけば起訴できませんでした。そういう場合,被害者が被害届を取り下げれば,起訴できなくなり,犯人は釈放され,元の生活に戻ります。

こういった「許す」とか「被害届を取り下げる」という言葉まで目指すのが,弁護士の最大の役割です。

必ずうまくいくわけではありませんし,そもそも,・許してくれるかどうか,・被害弁償を受け取ってもらえるかどうかは,すべて,被害者の方次第です。

被害者の方のお気持ちを,弁護士がどうこうできるものではありません。

とはいえ,必要以上に重たい刑を宣告されないようにするのが弁護士の仕事なので,そのために,尽力しています。

【 まとめ 】

刑事弁護も,弁護士の大切な仕事です。

ただ,刑事弁護を,「悪いやつの味方をしている」と白い目で見る人が多いですが,なんというか,それは1つの側面を強調しすぎていると思います。

確かに,犯罪者の「味方」として活動しますが,それは,「必要以上に重たい刑を宣告されないようにする」ためです。

「悪いやつ」にも言い分があって,その言い分が一切通らないまま,本来受けるべき刑よりも重たい刑が宣告されるような社会に生きていたいですか?

刑事事件は,どうしても他人事になりがちですが,それは世間知らずです。

この日本に住む,かけがえのない誰かが,刑事事件の被疑者として逮捕勾留され,起訴されているのです。それが,自分になってもおかしくないんです。

「悪いやつ」の「味方」になって,必要以上に重たい刑を宣告されないよう尽力する刑事弁護の仕事に,僕は大きな誇りを持っています。

この仕事のおかげで,安心して人々が暮らせているのだと,僕は自負しています。

それではまた明日!・・・↓

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