#463 破産は人助け-②
【 自己紹介 】
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【 今日のトピック:破産は人助け-② 】
さて,昨日は,弁護士が破産を処理することは「人助け」だということを説明しました。
「破産を処理する」なんて書いても,あんまり意味がわからないかもしれませんが,簡単に言えば,「破産を申し立てるのに必要な書類を作成して裁判所に提出する」ということです。
まあ,弁護士だと,書類を代わりに作成した後,破産しようとする本人の代理人として,裁判所に申立書類を一式提出するんですが,その書類もいろいろあって,法的知識がない人には,それを全部キレイに準備するのは,なかなか厳しいと思います。
例えば,クルマのエンジンが調子悪くて始動しない場合に,そのエンジンの故障を見抜いて修理できる人って,そんなにいないですよね?
おそらく,クルマのエンジンが動かない場合は,修理屋さんを呼ぶはずです。車修理の専門家にお金を払って,故障を直してもらいます。
これと同じように,破産するにも,専門家の知識やノウハウは必要です。それにお金を払うのは,仕方がないことだと思います。
しかも,破産の申立書類は,1日そこらで作れるものじゃありません。「家計の状況」といって,家計の収入と支出を書いた書類を裁判所に提出しなきゃいけないのですが,破産するような人は,家計簿なんかまずつけていませんから,まずは,家計の収支を記録することを習慣づけて,その記録した家計の収支を,2か月分提出しなきゃいけないのです。
だから,少なくとも2か月は,破産の申立書類を作成するのに時間がかかります。これに加え,お金を借りた理由,借りたお金を何に使ったのか,どうして返済が追いつかなくなったのか,などを書面で報告する必要もあり,他にも,保険の解約返戻金の金額を保険会社に照会して調べたり,退職金の金額を勤務先に書類で提出してもらったりと,やることは山積みです。
こういった必要な書類を,もれなく把握して,本人しか取得できない資料は本人に取得するよう指示を出しながら,弁護士で作る書類は弁護士で作りながら,ひとつずつ書類を揃えていきます。
こういう書類作成作業を事細かく行っていくわけで,その作業に対して,相応の費用が必要となってしまうのは,仕方がないことでしょう。
仕方がないとはいえ,破産を弁護士に依頼すれば,安くない費用がかかってしまいます。安くないお金を払ってまで破産するのは,破産すると,借金とオサラバして,新たに生活を再建できるからです。
借金からオサラバできないままだと,いつまでも返済の負担を背負い続けることになりますが,破産すれば,借金がチャラになり,返済から解放されて,人生を再スタートすることができるのです。
会社の破産の場合は,破産すると会社自体がなくなってしまうので,借金はゼロになってしまいます。会社自体が消滅するので,返済を求める相手がいなくなってしまうからです。
個人の場合も,「免責」といって,借金をチャラにする決定が出れば,法的に借金がチャラになります。破産した本人は,もちろん,借金がチャラになった後も生きていていいのですが,お金を貸していた銀行などは,本人が生きているとはいえ,「免責」の後は,返済を求めることはできません。
「破産」は,こういう感じで,借金で苦しんでいる人を,救えるのです。返済から解き放ち,新たに人生を再スタートさせる基盤を作るのが,破産なのです。
これこそ,破産が「人助け」になるという,今日のタイトルにつながります。
僕が過去に扱ったある破産の例をご紹介します。その破産事件では,会社とその社長を破産させました。
その会社は,フランチャイズのレストランを2店舗運営していました。社長は,最初は1店舗しか運営していなかったのですが,その店舗の経営がかなり上手くいったので,フランチャイズ本部から,2店舗目の出店を打診され,それに後押しされて,2店舗目も出店することにしました。
もともと,この社長は,化粧品の輸入会社を経営したりしていて,ビジネス畑で生きてきた方です。レストランを経営していますが,コックさんではありません。それでも,レストランの経営がうまくいっていたのは,経営センスがあったのでしょう。
ただ,2店舗目を出店する際,初期費用は新たに借り入れて賄うことにしました。自己資金がなかったのか,レバレッジをきかせて資本効率をあげようとしたのかは定かではありませんが(それとも両方の理由でしょうか),とにかく,1000万円を借り入れて2店舗目を出店しました。
※「レバレッジをきかせて資本効率をあげる」というのは,例えば,既に積み立てている預金2000万円(自己資本)を初期費用に使って,100万円の利益を出すよりも,既に積み立てている預金1000万円(自己資本)と借入金1000万円を使って100万円の利益を上げたほうが,より少ない自己資本で利益を上げることが出来ていて,会社として「効率がいい」ので,このような「効率がいい」経営にするために,お金を借りて自己資本の比率を下げることを意味します。
さて,破産の話に戻りますが,とにかく,2店舗目を出店する初期費用を工面するために,新たに1000万円を借り入れたのです。
しかし,2店舗目の経営はうまくいきませんでした。というのも,1店舗目は,平屋の建物を借りて,そこでレストランを運営していたのですが,2店舗目は,ショッピングモールのテナントとしてレストランを出店したところ,その家賃が,売上に比例していたのです。
1店舗目の場合,売上が増えても家賃は同じなので,売れば売るほど利益が出ますが,2店舗目の場合,売れば売るほど家賃も上がるので,1店舗目のように利益を出すことができませんでした。
結局,2店舗目は,せっかく借り入れまでして出店したにもかからず,利益を出すどころか,1店舗目で生み出していた利益を食いつぶすばかりです。
1店舗だけ営業していた際は,軌道に乗って利益を出していたにもかからず,その利益は2店舗目に食いつぶされ,しかも,新たな借金の返済も,会社の財務状況を圧迫します。
そこで,社長は,2店舗目の閉店を決意します。2店舗目をズルズルやっていても,ジリ貧になることが目に見えていたからです。ここで,きちんと閉店を決断できるのは,やはり,ビジネス畑の社長です。
その結果,利益の出ている1店舗目だけで勝負しようとしたのですが,結局,新たに借りた1000万円の返済が重くのしかかり,充分な利益を出すことは難しい状況でした。
ジリ貧な状態が続いていたので,早めにどこかで弁護士に依頼して,破産するなり,破産までしなくても,ありったけのお金を債権者に配って,1店舗目も閉めるなりしなきゃいけなかったんですが,この社長は,「夜逃げ」してしまいました。
ある日突然,お店を閉めちゃったのです。
そのまま,弁護士のところに駆け込んだはいいのですが,破産するのではなく,夜逃げしたまま,お金を取り戻そうとしていました。
「お金を取り戻す」というのは,その社長いわく,共同経営者が,会社を「乗っ取った」ので,お金を返してもらわなければ筋が通らない,ということでした。
この「乗っ取り」を担当していた事務所は,僕の事務所ではなかったので,詳細は知りませんが,結局,お金を取り戻そうと調停を提起して話し合いの場を持ったものの,お金を取り戻すことはできずじまいでした。
そこで,社長は,お金を取り戻すことを諦めて,破産を決意しました。この時点で,既に,夜逃げから2年が経過していました。
正社員やアルバイトに対する給料の未払いもありましたし,家賃も全額払わず,仕入れの代金も払わないまま,破産もせず,2年が経っていたのです。
まあ,社長としては,お金を取り戻すことが先決だという気持ちでいっぱいだったようで,取り戻したら,そのお金を使って破産するつもりではあったようです。
しかし,結局,お金を取り戻すことはできませんでした。そもそも,「乗っ取り」という,お金の取り戻しを求める理由もあいまいでしたから,お金の取り戻しが叶う見込みはかなり薄かったと思います。
お金の取り戻しを受任した弁護士も,見込みのない「お金の取り戻し」に付き合ってあげるよりも,速やかに破産を申し立てて,その破産手続で,借金を整理しながら,取り戻せるお金があれば,お金を取り戻して,債権者にお金を配ったほうがよかったと思います。
まあ,そういった結果論を書いても仕方ありません。
とにかく,その社長は,お金の取り戻しを諦めて,破産を申し立てることを決意します(お金が取り戻せていれば,そのお金を弁護士費用に充てることもできましたが,結局ダメだったので,弁護士費用は両親が出してくれました)。というのも,この社長には妻と娘がいて,その娘が小学校入学を控えていました。
その社長は,夜逃げして借金から逃れていたので,住民票の住所を現住所に変えていなかったのです。住民票上の住所は,夜逃げした頃に引き払っていて,現在住んでいたのは,妻の実家でした。
ただ,それが住民票に表れてしまうと,妻の実家まで取り立てがやってくることを考えて,住民票上の住所は変更せずにいました。
しかし,娘が小学校に入学するのであれば,住民票を移動せずにもいられないし,借金の取り立てにおびえて暮らす生活をいつまでも続けるわけにもいかないから,お金の取り戻しを諦めて,破産を決意し,うちの事務所に来られました。
お金の取り戻しを依頼していた弁護士に破産を依頼してもよかったのでしょうけど,お金の取り戻しが叶わなかったのと,事前に知らされていない追加の費用を請求された(調停から訴訟に移行する際に追加着手金が必要となるのを聞かされていなかった)ことから,信頼関係が壊れ,別の弁護士を探して,うちの事務所に来られたようです。
この破産事件は,正直なところ,僕にとって初めての「法人破産」で,しかも,ほとんど全部自分で事件処理を完遂できたので,非常に思い入れが深いです。
最終的に,会社も,社長個人も破産手続が完了し,社長個人も「免責」を得ることができました。
今は,運送会社の従業員として働き,給料を得て暮らしていらっしゃいます。
住民票も無事に移動することができました。借金の取り立てを怖がらなくてよくなったからです。
【 まとめ 】
破産は,こうやって,人を救います。
借金の返済から解き放たれることが,どれだけ人生にとってプラスに働くか,僕は破産事件を通じて,身を持って体験してきました。
破産の申立書類を作成し,それを裁判所に提出して破産を申し立て,最終的に「免責」を実現する。
これが,間違いなく「人助け」であることに,僕は大きな誇りを抱いています。
それではまた明日!・・・↓
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