#125 借地借家法(難しいことは僕もよくわかりません!)-⑪
昨日のブログ(こちら)の続きです。
昨日は,ガソリンスタンド判例について解説しました。
この判例は,借地権の対抗要件を備えないまま土地が売られてしまった場合に,原則として,借主(借地権者)は立ち退きを余儀なくされてしまうのですが,その例外を認めたものであると説明しました。
例外を認めるキーワードは「土地の一体的な利用」なんですが,一体的な利用状況があれば立ち退かなくていい,と短絡的に考えることはできず,特に,ガソリンスタンド判例の事案は,対抗要件を備えていない土地のほうには,ガソリンタンクが地中に埋められていて,なおかつ地上部分も給油所として使われてるため,「一体的」がものすごく「一体的」であることから,他の事案で,この判例と同じように考えられる場面は,そう多くないだろう,ということを説明しました。
これ,「判例の射程」という言葉を使って,法律の世界では説明します。判例の射程が「及ぶ」とか「及ばない」とか言うんですね,僕ら法律家は。
僕が昨日書いた病院と駐車場の話を例に取ると,この僕が直面した事案でも,ガソリンスタンド判例で給油所部分の土地の立ち退きが回避できたのと同じように,駐車場部分の立ち退きを回避できるのであれば,それはガソリンスタンド判例の「射程が及ぶ」と表現するんですね。
逆に,僕が直面した事案では,ガソリンスタンド判例とは違って,駐車場部分の土地の立ち退きは回避できないなら,それは,ガソリンスタンド判例の「射程が及ばない」と表現します。
で,僕は,昨日も説明したように,僕が直面した事案では,ガソリンスタンド判例の「射程が及ばない」と判断したんですね。ガソリンタンクと給油所を失ってしまうことに匹敵するほどの「一体性」がないと考えたからです。
で,ここからは,また別の話なんですが,Twitterで「家賃なんて払わなくていい」という話が流れてきたんですよ。弁護士が,そういったブログを書いているみたいです。
当たり前ですが,家賃は払わなくちゃいけません(笑)。契約書で決めた家賃を払う必要があるのは,当然です。
ただ,話はここで終わるんじゃなくって,その弁護士いわく,「家賃払わなくても立ち退きを余儀なくされるわけじゃないから払わなくてもいいよ」ということなんです。
これって,不思議ですよね?
家賃払わなくても立ち退かなくていい,そういったことが許されるのか?と素朴な疑問が浮かんでくると思います。
この疑問に対する答えは,「信頼関係」がキーワードになります。ちょっと説明しますね。
賃貸借契約を始めるときは,契約書を作ります。これを読んでいる人も,賃貸物件に住んでいるのであれば,その物件を借りるときに,賃貸借契約に印鑑を押して,契約書を1通保管していると思います。その契約書,全部読んだことある人は,おそらくいないとは思いますが,よくよく読んでいくと,「解除事由」(又は「解約事由」)の条文があります。
「解除事由」って何かというと,そこに書かれた約束事に違反した場合は,賃貸借契約を解除できるということです。「解除」の意味は,契約がなくなって,その結果,立ち退かなくちゃいけない,ということです。
で,この「解除事由」の条文には,「家賃の支払いが1回でも遅れたらダメ」とか「家賃の支払いが2ヶ月続けて遅れたらダメ」とか書いてあります。ほとんど(というか,必ず),家賃を何ヶ月分滞納したら解除するのか,契約書に書いてあります。
だから,家賃払わなくちゃダメなんですね。家賃払わないと,立ち退かなくちゃいけないって契約書に書いてあるからです。
(もし万が一,契約書に家賃滞納について書いてなかったとしても,家賃滞納は,借主の義務に違反していますから,この借主の義務違反は,法律上の「解除事由」になります。だから,契約書に家賃滞納について書かれていなくても,家賃を1ヶ月でも滞納したら,契約を解除できるんですね。)
じゃあ,契約書に書いてある分の家賃を滞納したら,必ず立ち退かなくちゃいけないのか,というと,実はそうじゃなかったりします。
法律って,難しいですねぇ。
世の中,簡単なことばかりじゃないことを認めましょう。簡単じゃない世の中を,自分なりに考えて進む必要があると,僕は信じています。
話を戻しますが,家賃を滞納しても,「信頼関係がまだ破壊されていないのでは?」という事情があれば,立ち退かなくていいのです。
これが,よくいわれる「信頼関係破壊の法理」です。借主に,家賃の滞納とかの契約違反があったとしても,まだ信頼関係が破壊されていないのでは?と思える事情があるなら,立ち退きを認めなくていいのです。
で,家賃の滞納が1ヶ月・2ヶ月程度なら,それだけだと「信頼関係破壊」に至っていないと判断されるケースが多いようです。
(とはいえ,1ヶ月・2ヶ月程度の滞納だけだとしても,それ以降の家賃も支払わないと明言しているような場合は,もう家賃の支払いは全く期待できないわけですから,そんな借主との信頼関係は破壊されているので,立ち退きは認められると思います。)
で,今回のコロナ騒動をきっかけに,家賃の支払いが苦しい方も多いはずで,そういった問題意識から,「家賃を払わなくてもいい」と↑の弁護士は発信したようです。
でも,契約に定められた家賃を滞納することは,契約違反で解除事由になることは否定できません。家賃の滞納がどんどん積み重なるほど,信頼関係破壊が進み,「まだ信頼関係破壊されていない」と認められる可能性はどんどん低くなっていきます。
↑の弁護士は,「大家さんが訴訟までして立ち退きを求めてくることはない」とも書いていますが,そんなことはありません。大家さんの代理人として立ち退きを求めたことは,僕自身何度もあります。
だから,僕としては,一方的に家賃の支払いをストップするというのは得策じゃないと思います。一方的に家賃の支払いをストップし,その滞納が蓄積されると,信頼関係がどんどん破壊されるという,借主にとって不利な事情(立ち退きかなくちゃいけない事情)が増えるだけです。
そうじゃなくて,まずは,大家さんと交渉することが必要だと思います。
コロナウイルスによって経済活動の停滞が引き起こされているのは周知の事実ですから,これによって売上が低下したことを理由に,家賃支払いの一時停止又は減額を求めるというような,交渉をします。
その交渉の結果,大家さんが,こちらの条件に応じてくれたり,どこか妥協点が見いだせれば,それで一応の解決を図ることはできますが,大家さんが応じてくれない場面もありますよね。
その場合,どうしても家賃全額が支払えないのであれば,減額して払うのもやむを得ないのかなぁと思います。ただ,減額した理由をきちんと説明できる必要はあると思います。売上から仕入やその他の経費・人件費を差し引いた結果,家賃の負担割合が,コロナ騒動以降急上昇していることを,きちんと数字を根拠に示せる準備は必要です。
で,この,大家さんと交渉して,交渉がまとまらずに支払停止又は減額に踏み切るのと,交渉せずに最初から支払停止・減額に踏み切るのとでは,最終的にやってることは一緒なんですが,交渉を間に挟んでいることで,「信頼関係破壊」が認められるかどうかに関わってくるんです。
やっぱり,何の相談もなく,いきなり家賃の支払いをストップしたり減額したりするのは,信頼関係破壊=立ち退きに傾いてしまいます。しかし,大家さんとの交渉を経て,その交渉の中でも,売上の減少額などの根拠となる数字を出して,ある程度合理的な減額を要求していたのであれば,そういったプロセスを挟んでいることが「信頼関係の維持」=「立ち退かなくてもいい」に傾くでしょう。
今日は時間がきましたので,ここまでにします。
それではまた明日
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