#476 僕なりの示談の進め方:理由をきちんと説明した上でメリットを伝える
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【 今日のトピック:刑事事件の示談 】
今日も,昨日に引き続き,刑事事件の示談についてお話したいと思います。
さて,昨日は,示談にもいろいろと段階がある,ということを説明しました。
「示談」とは,犯罪によって被害を受けた被害者の方と犯人が,その犯罪について,何らかの約束を結ぶことを意味しますが,そもそも,被害者の方が連絡先を教えてくれず,示談交渉することができない,というケースがかなりあることも昨日は説明しました。
特に性犯罪では,被害者が連絡先も教えてくれないことが多いと,僕が個人的に考えていることも説明しました。
まあ,昨日説明した事案では,何の面識もない女性に対し,路上で抱きついているので,そんな犯人の弁護士に対し,一切の情報を開示したくない気持ちもよくわかります。
連絡先を弁護士限りで止めるよう伝えることはできますが,本当にそのとおりに弁護士がやってくれるという,絶対的な保証はありません。
もちろん,僕は,連絡先を弁護士止まりにしておいてほしいと被害者の方から言われたら,ゼッタイに被疑者・被告人には教えませんが,とはいえ,そもそも,弁護士にすら連絡先を教えなければ,犯人に連絡先が知られてしまうリスクをゼロのままキープすることができます。
だから,連絡先すら教えないのは,とても合理的な判断でしょう。
示談にも段階がある,という話に戻りますが,示談交渉ができたとしても,交渉が決裂したりするケースもあります。
金額面で折り合いがつかないケースが典型的です。
ただ,金額面で折り合いがつかないとしても,被疑者・被告人側で用意できる精一杯のお金を,被害弁償として受け取ってもらう,という段階があります。
そうすれば,少なくとも,受け取ってもらえた額だけは,被害が回復されたことになり,被害者の方にとってもメリットがありますし,被疑者・被告人にとっても,有利な事情となります。
その先の段階としては,「全額の被害弁償」があります。「もうこれ以上の被害弁償は請求しません」と被害者が書面で約束してくれている状態です。
「もうこれ以上の被害弁償を請求しない」ということは,「全額の」被害弁償ができている証です。
その更に先には,被害者が犯罪を「許す」・「被害届を取り下げる」という段階があります。
ここまで来ると,被疑者・被告人にとって,とても有利な事情となります。
なぜなら,被害者がいる犯罪にとって,何よりも重視するべき被害者の気持ちの面ですが,被害者から許しを得ることができていて,かつ,全額の被害弁償も済ますことができているのであれば,あえて,裁判所が厳しい刑を課す必要はない,ということになるからです。
被害弁償も済ませていて,被害者も許しているにもかかわらず,裁判所がしゃしゃり出て厳しい刑を宣告できるのは,社会への影響が大きいような重大犯罪など,かなり限定的な場面です。
さてさて,こういう感じで,示談にもいろいろと段階があるのですが,今日は,僕が示談交渉を進める上で大切にしていることについてお話したいと思います。
「示談交渉を有利に進めるテクニック」のように思われてしまうかもしれませんが,僕はそうではないと思っています。
「テクニック」というと,なんか,小手先の話術で,示談したくな被害者であっても示談させてしまう,というような感じに思われてしまいますが,そんなテクニックは僕にはありません。
僕はもともとウソをつけない性格ですし,かつ,これまでの経験を踏まえて,ウソをつかないほうが,物事はうまくいくという思想すら持っています。
だから,ウソをついたり,言いくるめたりして無理くり示談に持っていく,という話ではありません。その点はご了承ください。
さて,前置きが長くなりましたが,僕が示談交渉の際に大切にしていることは,第1に,犯罪が起きた理由を懇切丁寧に説明することです。
被害を受けた方は,何よりも,「どうして自分がこんな理不尽な被害を受けなきゃいけなかったのか?」を気にしています。
例えば,傷害事件の被害者であれば,自分がケガさせられなきゃいけなくなった理由について,きちんと弁護士から説明を受けなければ,示談に応じるかどうか判断する前に,門前払いでしょう。
もちろん,理由を聞いたところで,自分の被害を納得できるわけではありません。しかし,「どうして殴ってきたのか」すら説明のないまま,「被害弁償を受け取ってくれ」とか「許してくれ」と,犯人の弁護士から言われても,応じるわけないんです。
で,説明する「理由」も,かなりの精度が必要です。
↑で書いた傷害事件の例でも,「むしゃくしゃしていた」という理由だけ被害者に説明してもダメです。「なんでむしゃくしゃしていたの?」という疑問が当然ながら湧いてくるからです。
「なんでむしゃくしゃしていたの?」という,当然浮かんでくる疑問に対しても,回答を用意しておかなきゃいけません。
「なんでむしゃくしゃしていたの?」という理由に対して,「仕事やプライベートがうまくいっていなくて」という回答を用意していても,まだ足りません。更に掘り下げた「理由」が必要です。
こうやって,どんどんどんどん,自分なりに,回答を掘り下げていかなきゃいけないんです。
被疑者・被告人と面会する際は,どうして犯罪をしてしまったのか,どうして被害者の方に被害を与えてしまったのか,弁護士自身が納得できる,最後の最後まで聞き取らなきゃいけないんです。
最後の最後まで「なんで?」と被疑者・被告人に質問し,自分が最後の最後まで納得できる答えを引き出す。
そこまで「理由」の精度をあげて,被害者と対面しなきゃいけません。
もちろん,被害者の方からの質問にすべて答えられるかどうかはわかりません。被害者の方が,犯罪のどこに疑問を持っているのか,実際に被害者の方とお話してみるまでわからないからです。
ただ,自分が最後の最後まで納得できる「理由」を被疑者・被告人から引き出しておけば,被害者から予期せぬことを聞かれても,「予期しなかった」ことの根拠を説明できます。
「私は,〇〇という点が大切だと思って,その点については,〇〇と聞いてきました。」
「今ご指摘のあった××という点については,△△という理由で,現時点では重要とは思っておらず,聞き取りが不十分でした。今日のご指摘を受け,改めて,次回までに回答します」
自分が納得できるまで聞き取っていれば,被害者の方からの質問に答えられなくても,答えられない理由を,根拠をもって説明できるんです。
自分が回答を用意していなかった事項があったとしても,回答を用意していなかった理由を,きちんと説明できれば,回答を用意していなかったことが非にはならないんです。
だからこそ,最後の最後まで,自分が納得できる回答を用意しておくのが大切なのです。
被害者の方と示談交渉に臨む場合,「準備不足」が露呈するのがいちばんマズイです。
弁護士の「準備不足」が被害者の方に察知されてしまうと,その時点でお陀仏です。そんな弁護士とは示談交渉してくれません。
だから,僕は,とにかく,被害を与えてしまった理由を,最後の最後まで聞き取ります。まずはここを,とても大切にしています。
ここがきちんとできていることが大前提で,次は,ちょっとテクニックぽくなりますが,示談することが,被害者にとってメリットになることを説明します。
もちろん,被害者の方にとって,被害弁償金を貰うことは「メリット」ではあるのですが,そもそも,法律上,加害者が被害者に対して,被害を弁償するのは,法的な「義務」なので,単に義務を果たしていることを「メリット」と被害者の方に説明するのはマズイです。
被害弁償は「当たり前」なので,その「当たり前」を「メリット」と説明するのは,説得になっていません。
じゃあ,何を「メリット」と説明するのかというと,僕がよく使うのは,「僕はあくまで刑事弁護人で,刑事事件が終わったら僕は交渉できる立場ではなくなりますよ」というものです。
ここで,被害者の方の視点から,示談交渉を見てみましょう。
被害者の方から示談交渉を見てみると,弁護士の方からアポイントをとってきて,面談して,示談を「お願い」されます。
もちろん,被害者の方は示談を「お願い」される立場です。示談が成立すれば,示談が有利な事情となって被疑者・被告人の刑が軽くなるわけですから,被疑者・被告人の弁護士は,なんとか刑が軽くなるよう,被害者に示談を「お願い」してきます。
ただ,示談を「お願い」してくるのは,刑事事件が終わるまでです。
刑事事件は,被疑者が起訴されて,裁判が行われ,判決が宣告されたら,それで終わります。
もちろん,その判決に不服なら控訴することができますが,控訴するかどうかは被告人次第ですし,弁護士の活動は,一審の判決宣告までなので,一審の判決が出れば,その時点で,弁護士の活動も終了します(控訴する場合は改めて弁護人を選任することになります。一審の弁護人も,控訴することはできますし,控訴後の保釈申請まではできます。別途料金がかかる弁護士も多いでしょうが。)。
そうすると,弁護士は,被疑者・被告人の代理人として示談交渉ができなくなるのです。
弁護士は,あくまで,刑事事件の弁護人なので,刑事事件が終わってしまえば,弁護人としての立場はなくなります。
刑事事件が継続中だからこそ,弁護士は,示談交渉ができたのです。刑事事件が終わった後は,被告人本人に代わって示談交渉できる立場が消滅してしまいます。
これが何を意味するかというと,被害者は,被害弁償を「お願い」されなくなる,ということです。
刑事事件が終了してしまえば,「判決」という結論が出てしまっていて,示談・被害弁償して,刑を軽くするという,示談交渉の目的がなくなってしまっています。
かつ,示談交渉の窓口となっていた弁護士が,示談交渉できなくなってしまっているので,示談交渉も,被告人本人が相手になります。
被告人が,刑事事件が終わった後も,弁護士を雇って示談交渉の窓口とするかどうかは,被告人次第です。
特に,国選弁護の場合,刑事事件の弁護士費用は国が出してくれますが,刑事事件が終わった後に,被告人が示談交渉のために弁護士を雇う場合,それは国選弁護の対象外なので,別途弁護士に費用を支払う必要があります。
お金がないからこそ,国選弁護を依頼した被告人が,わざわざ高いお金を出して弁護士をつけて,示談交渉してくれるとは思えません。
そうなると,被害弁償金がほしい被害者は,自分自身で交渉するか,または,訴訟を提起することになります。
先ほど,被害者が加害者に対して被害弁償するのは,「法的な義務」であって,「当たり前」と書きました。
とはいえ,その「当たり前」を自発的に果たしてくれない加害者に対して,無理やり義務を果たしてもらうためには,被害者の側からアクションを起こさなきゃいけない,というのが法律の決まりごとです。
被害者の側から交渉を申し入れたり,訴訟を提起したりしなければ,権利を実現できないのです。
ここまで書いたようなことを,被害者の方に,示談の「メリット」として説明するんです。
「今は,僕が示談交渉の窓口となっていますが,判決が出ると,示談交渉できなくなってしまいます」
「そうなると,被害者のほうから,アクションを起こさなきゃいけなくなります」
こういうことを伝えたうえで,今のうちに示談しておいたほうが,被害者の方にとってもメリットがありますよ,と説明します。
まあ,「メリットを説明します」という書くと,テクニックっぽく見えてしまいますが,この説明は,被害者の方の誤解を予防するためにも必要だと思います。
被害者が方からすれば,犯人の弁護士の側からアポイントをとってきて示談交渉にあたっているわけですから,その弁護士を通じて被害弁償を受けられるのが「当たり前」のようにも見えます。
しかし,判決が出て刑事事件が終わると,つい最近まで示談交渉していた弁護士が示談交渉できなくなり,かつ,被害弁償を貰いたいなら自分からアクションを起こさなきゃいけない状態となってしまっています。
こういった,示談がまとまらないまま時間が進んだ場合に生じる不利益を,被害者にきちんと説明しておくのも必要なのかなと思います。
最終的に示談に応じるかどうかは,もちろん,被害者本人に100%の決定権限があります。
ただ,最終判断を下す前に,きちんと必要な情報を仕入れておくのが必要で,その情報提供のお役にも立つべきなのかなと思います。
【 まとめ 】
犯罪の被害に遭われた方には,犯人の弁護士から,示談交渉の連絡が入ります。
悪いやつの味方だ!と弁護士を切り捨てるのも1つですが,会うだけ会ってみて,いろいろと質問してみるのも良いと思います。
答えられる限り,弁護士は質問に答えます。
示談交渉に臨む弁護士は,自分の一挙手一投足が示談できるかどうかを左右するので,かなり入念に準備していきます。
最終的に示談に応じるかどうかは,最後の最後で決めればいいのです。
示談するかどうかとは別の問題で,弁護士と話すだけ話してみて,疑問点を解消するために,うまく弁護士を使えばいいと思います。
それで,示談しないと結論づけたら,その結論を,弁護士も当然尊重します。
弁護士とすら話さないままだと,自分が被害を受けた理由すら聞けずに終わってしまいます。
理由を聞くために,犯人の弁護士を使い倒してもいいですよ。
示談するために,被害者の方の質問に懇切丁寧に答えるのも,弁護士の大切な仕事なので。
それではまた明日!・・・↓
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