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#496 交通事故の支給基準:保険会社基準と裁判基準

【 自己紹介 】

※いつも読んでくださっている方は【今日のトピック】まで読み飛ばしてください。

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【 今日のトピック:交通事故の損害賠償 】

交通事故で被害を受けた場合は,その被害をお金に換算して受け取ることができます。

例えば,赤信号で停止中に,後ろから追突されてケガを負い,通院を余儀なくされたのであれば,治療費(病院に支払うお金)や,病院に通院するための交通費,通院によって収入が減ったのなら,その収入減の補填(「休業損害」と呼ばれます),慰謝料(ケガを負った際に味わった痛みなどの苦痛,そして通院を余儀なくされたことによる精神的苦痛をお金に換算したもの),後遺症(これ以上治療しても治らない症状)が残ったのであれば,その後遺症によって今後受ける精神的苦痛の慰謝料(「後遺症慰謝料」と呼ばれます),後遺症によって,将来の収入減が見込まれるのであれば,その収入減の補填(「後遺症逸失利益」と呼ばれます),などなど,こういった損害賠償を,被害者は受け取ることができます。

「受け取ることができます」とはいっても,法的に損害賠償を請求できる相手は,基本的に加害者本人です。

あとは,車の所有者(車検証の「所有者」欄に記載されている人または会社)にも請求できます。

(でも,「所有権留保」といって,自動車をローンで購入した場合に,「所有者」欄に販売会社の名前が記載され,ローンを完済したら自分の名義に変更できる,というのがあるんですが,この場合は,販売会社に損害賠償を請求することはできません。)

あとは,加害者が仕事中に運転していた場合は,加害者が勤務している会社にも損害賠償を請求できます。

こんな感じで,被害者は,加害者,車の所有者,加害者の勤務先などに損害賠償を請求できるのですが,ただ,実際のところ,損害賠償を支払っているのは,保険会社です。

交通事故を経験したことがある人はご存知だと思いますが,被害者に損害賠償を支払うのは,加害者が加入している自動車保険の保険会社です。

交通事故が起きると,「保険屋がどうのこうの」とよく言われますが,法的に厳密に言えば,損害賠償を直接請求できる相手は,保険会社ではなく,加害者本人,車の所有者,加害者の勤務先などなんですが,この人たちが,自動車保険に加入していると,保険会社が損害賠償の支払いを肩代わりしてくれるわけです。

この「損害賠償の支払いを肩代わりしてもらう」ために,自動車保険に加入して,毎月保険料を収めているんです。

こういう感じで,加害者(車の所有者と加害者の勤務先も含む)に代わって保険料が損害賠償を支払います(保険会社に支払いを肩代わりしてもらうと,保険の「グレード」が下がり,毎月の保険料が増額になってしまいます。だから,損害賠償の金額が支払可能な範囲内であれば,保険会社に肩代わりしてもらうことなく,加害者が自分で損害賠償を支払うこともあります。)。

ここからが今日の本題なのですが,保険会社が被害者に支払う金額を決める際,保険会社は,自社の基準に従っています。

例えば,通院期間が3か月(そのうち,10回通院した)であれば,治療費は全額支払うけれども,慰謝料は40万円を支払うとか,そういった基準があって,保険会社は,その基準に従って,被害者に支払う金額を決めています。

ただ,被害者は,↑の保険会社が,自社の基準に従って提示してきた金額しか貰えないのではありません。

↑で書いた,各保険会社が自社で作っている基準を,まとめて「保険会社基準」なんて呼んだりもしますが,これとは別に,「裁判基準(弁護士基準)」と呼ばれる基準が存在します。

これは何かというと,裁判を起こしたら貰える金額の基準です。「裁判官が見ている基準」と言ってもいいでしょう。

この「裁判基準」は,「保険会社基準」よりも,かなり高額です。

そして,裁判を起こせば,必ず「裁判基準」で金額が決まり,保険会社も,裁判で決まった金額を支払ってきます。

言ってしまえば,「法的に」,裁判基準の金額の損害賠償を請求する権利があるわけです。

「法的に」,裁判基準で請求することができるにもかかわらず,保険会社は,裁判基準よりも低額の支給基準を,わざわざ自社で作成し,その基準に基づいて算定した金額しか提示してきません。

「この金額で精いっぱいです」なんか言っちゃったりして,さも,「この金額以上を支払うことはできません」のような雰囲気を醸し出してきます。

でも,その雰囲気は嘘っぱちで,本当は,法的に,もっと高額の「裁判基準」に従って算出された金額を受け取ることができるのです。

じゃあ,どうして,保険会社はわざわざ自社独自の基準を作り,その基準で支払おうとするのでしょうか。

やっぱりそこは,保険会社も営利企業なんだからなのでしょう。

保険会社の収入源はお客さんが毎月払っている保険料ですが,この限られた保険料収入で,従業員を雇い,その従業員たちを食っていかせなきゃいけないわけです。

最初から裁判基準で支払う,という方針を採用してもいいのでしょうが,そうすると,当然,この保険会社の保険料は他の保険会社よりも割高になり,なかなかお客さんに保険を買ってもらえなくなります。

その結果,この保険会社は経営が立ち行かなくなり,雇用している従業員も守れないし,毎月保険料を支払い,万が一に備えてくれているお客さんの期待にも応えられなくなってしまいます(保険会社が倒産してしまうと,それまで支払ってもらった保険料はすべてパーになってしまいます)

だから,保険会社も,従業員とお客さんのことを考えて,自社独自の支給基準を作成し,その基準でなるべく支払わなきゃいけないのです。

ただ,被害者側に弁護士が代理人につき,裁判基準で算出した金額を請求すると,保険会社も,裁判基準の金額に近づけてきます。

弁護士が代理人についているということは,いつでも裁判できる状態となっているからです。

弁護士がついても,裁判基準に近づけないまま,保険会社の基準を押し通すこともできますが,そんなことしても,弁護士が秒で裁判を起こしてきて,その裁判では,裁判基準に従った金額が判決で出ちゃいます。

だから,弁護士が代理人につくと,保険会社基準ではなく,裁判基準をベースに金額の交渉が行われ,弁護士がつく前よりも,かなり高額の損害賠償が見込まれます。

しかし,弁護士がつく前は,「いつでも裁判できる状態」ではありませんから,保険会社としても,従業員とお客さんを守ることを優先して,自社の基準で金額を提示してきます。

【 まとめ 】

弁護士がつくと金額が上がる,という事実の表面ばかり捉えて,弁護士の「利権」とか,「最初から裁判基準で払えよ」と考えるのは思考停止だと思います。

弁護士がつく前から裁判基準で支払っていると,保険会社は従業員とお客さんを守れなくなってしまいます。

だから,弁護士に「利権」があるわけでもなく,保険会社が怠けているわけでもありません。

ただ,こういう現実があることを踏まえると,万が一のとき(交通事故で被害を受けたとき)に,タダで弁護士を使い倒せる弁護士費用特約は,必須のオプションだと思います。

それではまた明日!・・・↓

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