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親権の濫用

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このブログでは、2019年7月にうつ病を発症し、それをきっかけに同年12月からブログを始めて、それ以降、700日以上毎日ブログ更新してきた、しがないサラリーマン弁護士である僕が、日々考えていることを綴っています。

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【 今日のトピック:親権の濫用 】

さて、昨日は、親権者が特別代理人を選任せずに「利益相反取引」をした場合に、「無権代理」になる、ということを書きました。

「無権代理」の意味って、結構難しいと思います。

法学部の民法の授業では、代理って結構最初のほうで学ぶんですが、それなりに複雑な話だと思います。

「無権代理行為は原則として効果帰属しない」というのが、専門用語を使った説明なんですが、専門用語としての「行為」が契約を意味していたり、「効果帰属」なんてワードもバリバリの専門用語で、わかりにくいです。

まあ、結局、「代理」って何をしているかというと、代理人が相手と契約を結んでいて、その代理人が結んだ契約が、本人を当事者として成立するんです。

「本人」というのは、代理人に代理権を与えた人ですね。

「私の代わりに契約しといて」と、代理権を与えた本人は、その代理人が結んだ契約の当事者となります。当たり前ですけど笑

実際に署名押印しているのは、本人ではなく代理人なんですが、にもかかわらず、契約当事者は代理人ではなく本人なんです。

普通に考えたら、契約当事者は、署名押印した人なんですが、代理人が間にはさまると、そうじゃなくなります。

なんか、不思議ですよね。自分以外の誰かが、自分が当事者になる契約を結んでいるのは、なんか不思議です。

ちなみに、代理人が署名押印する場合、その名前は、「〇〇代理人××」と書きます。

例えば、「田中真紀子代理人田中角栄」です。この場合、田中真紀子の代わりに田中角栄が契約を結んでいるわけです。

田中真紀子が、田中真紀子の名前で署名押印しているんですが、契約当事者は田中角栄なんです。

それが「代理人」です。自分以外の人が結んだ契約なのに、自分が当事者になります。

その根拠は、自分が代理権を与えたからです。

契約に先立って、契約を結ぶ代理権を与えたんだから、そりゃ、自分が当事者になる。それが、代理の理屈です。

逆に、契約に先立って代理権を与えていないのなら、自分以外が結んだ契約の当事者になる根拠がありません。

これこそ、「無権代理行為の効果帰属しない」の意味です。契約に先立って代理権を与えていないのだから、その契約の当事者になる根拠がなく、そのため、契約が本人との間では成立しないんです。

これが、「無権代理」の話です。

(ちなみに、親権者が子どもの代理人なれるのは、子どもが代理権を与えたからではなく、法律にそう書いてあるからです。法律にそう書いてあるから代理権がある代理人のことを、「法定代理人」と呼びます。だから、親権者は子どもの「法定代理人」なのです。)

さて、利益相反取引については親権者に代理権がありませんから、その結果、特別代理人を選任せずに自分が代理人として「利益相反取引」をしてしまったら、その効果が子どもに帰属しません。

たた、今日お話する「代理権の濫用」は、これとは少し違います。

というのも、代理権の濫用って、めちゃくちゃ漢字がおどろおどろしいくせに、実は、代理権がちゃんとあります。

代理権があって、その代理権に基づいて、契約を結んでいるのが、「代理権の濫用」です。

「じゃあ、何も文句ないじゃないか!濫用でもなんでもない!」と思われてしまうでしょうが、確かに、表面上は、何の文句も言われる筋合いはありません。

ただ、「実は・・・」です。

過去に問題となった事案では、子どもの借金の担保として、子どもの不動産に抵当権を設定していました。

子どもは未成年ですから、当然、抵当権の設定は親が代理人にならなきゃいけません。

ただ、どうして親が、子どもに借金させて、子どもの不動産に抵当権を設定するのかというと、子ども名義の借金とはいえ、実は、親が使うために子どもの名前で借金しているんです。

子どもの名前で借金して、ただ、入金されたお金は親が使っていて、その尻ぬぐいは、子どもの不動産に抵当権を設定すればいいやと思っているわけです。

これとは違って、親の借金の担保として子どもの不動産に抵当権を設定するのなら、「利益相反取引」なんですが、借金はあくまで子ども名義なので、「利益相反取引」には該当しません。

今日の前半で散々説明したとおり、特別代理人を選任せずに利益相反取引を結んだ場合は、「効果帰属しない」ので、契約相手はたまったもんじゃありません。

だから、契約の時点で、利益相反取引かどうかを客観的に判断できなきゃいけないので、利益相反取引かどうかは、親の意図ではなく、「誰名義の契約か?」というところが基準になります。

ただ、子ども名義とはいえ、自分で使うために借金して、その借金も、子どもの不動産に抵当権を設定して尻ぬぐいさせようとする親は、けしからんですよね。

その不動産が子ども名義になった経緯はいろいろあるんでしょうけど、未成年でも、親とは別の人間です。

その別の人間である子どもを食い物にするような所業は許されるべきではありませんが、ただ、抵当権設定契約には相手がいます。

その契約相手をないがしろにすることはできません。

契約内容を見る限り、利益相反取引には該当しないわけですから、ちゃんと代理権はあるわけです。にもかかわらず、親の意図によって、契約の効力が左右されてしまっては、安心して契約を結ぶことができません。

だから、「代理権の濫用」の場合は、その濫用、つまり、親の意図を契約相手が知っていた場合に限って、契約が無効となります。

子どもに不利益を押し付けて、親自身が得しようという意図を契約相手が知っていたのであれば、その契約相手が予期せぬ損害を被ることはありませんから、そうであれば、契約相手よりも子どもの利益を優先していいと考えられています。

だから、結局、代理権の濫用の場合は、原則として契約は有効で、契約相手が親の意図を知っていた場合に例外的に契約が無効となります。

さらに言うと、この「濫用」に当たるかどうかのハードルも結構高くて、最高裁は、親権者が法定代理権を「濫用した」とはあまり認めてくれない傾向があります。

子どもの不動産に抵当権するという行為は、子どもに借金の尻ぬぐいをさせているわけですが、ただ、それだけで、代理権の濫用とは認めてくれないのが最高裁の結論です。

もちろん、借金が親名義であれば、利益相反取引に該当するのですが、借金が子ども又は第三者の名義の場合は、抵当権の設定だけで代理権の濫用とは認めてくれません。

さて、今日で利益相反取引及び親権の濫用についての話は終わりにします。

お付き合いいただいて、ありがとうございました。

それではまた明日!・・・↓

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