#465 少しだけ難しい話:時効完成後の債務承認と保証人に対する効力
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【 今日のトピック:時効完成後の債務承認と保証人に対する効力 】
今日はハチャメチャに難しそうなタイトルですが,そこまで難しくないと思っています。お付き合いくださると嬉しいです。
さて,まずは「時効完成後の債務承認」から説明しましょうか。
そもそも,時効には「中断」という仕組みがありました。
「ありました」というのは,2020年4月1日に施行された改正後の民法では,「中断」という名前はなくなり,「更新」と「完成猶予」という2つの分類に変わりました。
「中断」というのは時効が「リセットされる」ということです。「リセット」なので,「更新」という言い方がわかりやすいということで,「更新」という言葉遣いに変わりました。
「リセット」って,どういうことかというと,例えば,2020年12月31日を返済期限として100万円のお金を貸した場合,返済期限から5年が経過すると(2026年1月1日になると),借主は時効を理由に返済しなくてよくなるのですが,しかし,返済期限から3年が経過した2024年1月1日に,「明日までに耳揃えて返済します」とか,お金を借りていることを前提にした発言をすると,この発言が「債務の承認(お金を返済しなければならないことを認めたこと)」となって,せっかく,残り2年で時効期間が満了するはずだったのに,↑の発言があった2024年1月1日から,再び5年が経過しないと,時効にはならない,ということです。
これが,時効の「中断」であり,今は「更新」と呼ばれている仕組みです。
せっかく時効の期間が進んでいたのに,リセットされて,また最初からやり直しになるのです。
この「中断」または「更新」は,保証人がいた場合はどうでしょうか。
「保証人」とは,借りている本人に代わって返済する立場にある人を指します。貸主との間で保証契約を結んで,「借りている本人に代わって返済しますよ」と貸主に対して約束した人が「保証人」です。
この「保証人」は,当たり前ですが,借主が返済しなくてよくなったら,保証人自身も返済しなくていいです。
あくまで,借主に「代わって」返済するだけなので,借主本人が返済しなくていいのであれば,保証人が返済する必要はありません。
だから,借主本人が,時効によって返済しなくてよくなったら,保証人も,返済しなくてよくなるんです。
(ちなみに,時効は,ただ期間が経過すればそれでいいわけではなく,「援用」といって,貸主に対して時効期間が経過したことを通知しなければなりません。そして,「援用」できるのは,当たり前ですが,借主本人だけなのが原則です。しかし,保証人は,借主本人が時効を援用してくれれば,自分も返済義務から解放されるのに,借主本人が援用しないばっかりに返済義務を負い続けるのは,かわいそうです。だから,保証人は,本来借主本人しか援用できないにもかからず,借主本人に代わって,借主の時効を援用することができます。「援用」すれば,正式に借金が消滅するので,この消滅に伴い,保証人も返済義務から解放されます。)
じゃあ,借主本人が,「債務消滅」したらどうでしょうか。
先ほどの例に戻りますが,借主本人が2020年12月31日を返済期限としてお金を借りていて,そこから3年が経過した2024年1月1日,借主本人が「耳揃えて返済します!」と貸主に発言してしまったら,せっかく残り2年で時効だったのに,リセットされて,また5年をやり直さなきゃいけなくなる,ということでした。
この「やり直し」に,保証人も付き合わされてしまうのでしょうか。
残念ながら,付き合わされてしまいます。民法に条文があって,借主本人が承認してしまったら,保証人との関係でも,時効期間がリセットされてしまうと書かれています。
今日の話は,ここからがメインです。
今まで書いてきたことは,時効期間が経過する「前」に,承認してしまった(返済義務があることを前提にした発言をしてしまった)ケースを見てきましたが,じゃあ,時効期間が経過した「後」に,承認してしまった場合はどうなるでしょうか。
まずは,借主本人との関係を見ていきます。
借主本人が,時効期間が経過した後,先ほどの例で言えば,返済期限の2020年12月31日から5年が経過した後,例えば2026年1月1日に,「耳揃えて払います!」と発言してしまった場合,借主本人は,その発言を撤回して,時効を援用することはできなくなります。
なぜなら,時効期間が経過しているとはいえ,借主本人が「耳揃えて払います!」と発言したのであれば,それを貸主が信頼するのもやむを得ないからです。時効期間が経過していることをうっかり忘れていた借主本人よりも,「耳揃えて払います!」との発言を信頼した貸主を優先するべきだからです。
じゃあ,保証人との関係ではどうでしょうか。
先ほど書きましたが,保証人は,借主本人に代わって返済する立場にあります。借主本人が消滅時効を援用できず,借金が残っている状態であれば,保証人も「代わって返済する立場」から逃れられない気もします。
しかし,判例によると,そうではないようです。
つまり,時効期間が経過した「後」に,借主本人が,「耳揃えて払います!」と発言したとしても,保証人はそれに付き合わされることはないのです。
借主本人は,時効期間が経過した後に,「耳揃えて払います!」と発言してしまったら,その発言した日から,再び時効期間がやり直しになるんですが,保証人はそうではなく,時効期間が経過したことを理由に,「援用」できるのです。
借主本人が,時効期間経過後に承認してしまった場合に,援用できなくなるのは,あくまで,借主本人の「うっかり」よりも,借主本人を信頼した貸主を保護するためです。
そうすると,特に「うっかり」もしていない保証人が,借主本人の「うっかり」に付き合わされる筋合いではないんです。
しかも,保証人は,先ほど説明したように,借主本人に代わって,借主本人の借金を「援用」することができます。
せっかく保証人は「援用」できるようになっていたのに,借主本人の「うっかり」によって援用できなくなるというのも,保証人にとってひどい話です。
だから,あくまで,時効期間経過後の承認によって不利益を受けるのは,借主本人だけで,保証人は,時効期間経過によって援用できるようになっていた立場を利用して,借主本人に代わって「援用」できます。
借主本人の借金が,保証人の「援用」によって消滅すれば,保証人も返済義務から解放されます。
借主本人は,時効期間経過後に承認してしまった結果,「援用」できず,返済義務を負い続けますが,それはそれで仕方がない,ということです。
【 まとめ 】
借主本人の「承認」が,時効期間経過前か経過後かで,保証人の立場は正反対になります。
時効期間経過前であれば,借主本人の「承認」に付き合わされる(時効期間のやり直しに付き合わされる)ことになります。
これに対し,時効期間経過後であれば,借主本人の「承認」に付き合わされずに済みます(時効期間がやり直しにはならず,借主本人の承認とは関係なく「援用」できます)。
ここまで大きく違うとは,思ってもみませんでした。
今日は,時効期間経過前については,民法に条文があることが学べましたし,時効期間経過後についても,判例があって,保証人が保護されていることが学べました。
今日は本当にいいこと学べました。
それではまた明日!・・・↓
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