令和の歳時記 キボシカミキリ
数多くいるカミキリムシの仲間の中でこのキボシカミキリの容姿が一番美しいとわたしは感じる。観察すればするほど完璧に鍛え抜かれたアスリートを彷彿させるからだ。
無駄の無い贅肉を取り払ったスポーツ選手そのものだ。頭、胸、腹のそれぞれの部位は細くスマートで体の2倍はある長い触角が丸みを帯び体の左右に広げている様子は正に芸術だ。
体長は約20ミリから30ミリ。名前の由来は背中の黄色い斑点を星に見立てたと言われている。
話しは前後するが、初めてキボシカミキリを見つけたのはわたしがまだ小学生の頃だった。その時の感動は今でも忘れられない一生の思い出だ。なぜならわたしが初めて虫と会話したのがこのカミキリなのだ。
昆虫少年だったわたしと兄は毎年、祖父が持つ山へ麦藁帽子かぶり捕虫網と虫カゴを持って走り回っていた。疲れた時、休む場所は大抵大きなイチジクの木の木陰にそっと腰を降ろして母が作ってくれた麦茶を飲みながら兄と捕まえた虫を自慢しあった。
ふと寝転がってイチジクの葉っぱを見上げるとそこにこのキボシカミキリがいたのである。
初めて見るキボシカミキリ、体を起こして近づく。するとどうだろう。キボシカミキリと目と目が合うではないか。捕まえないでおくれと哀願するような目だった。
胸が高鳴った。その瞬間、わたしは初めて虫の心の琴線に触れたと今でも確信している。
当然ながら捕まえたいという気持ちが沸いてこない。隣で昼寝をしている兄をよそにわたしはキボシカミキリとの会話をしばらく楽しんだ。
わたしがあまりにも見つめるから恥ずかしかったのだろうか、キボシカミキリはスマートな体からゆっくりと羽を広げて青空へと飛び去っていった。
そしてわたしは虫カゴの虫をすべて逃がしてあげたのである。
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