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令和の歳時記 ヒメコウゾ


ヒメコウゾ

梅雨の真っ只中、必ず訪れるお気に入りの川がある。目的はもちろん「泳ぐ」こと。もちろん、雨の降らない日を選ぶ。なぜ、雨が降る時節にわざわざ川で泳ぐのかと質問される。

理由は第一に人がいないこと、第二に「水質調査」とでも言っておこう。実はこの季節の川の水は濁っていることが多い。それはご推測通り、連日連夜の雨が川に流れ込んでいくからだ。

この季節の雨は地中深く浸透して行く量より、地上を激しく流れて下へ下へと向かい川になる量の方が多い。従って、地表にある葉っぱや土、その他ゴミなどと一緒に駆け抜けていく。

逆に春先の雪解け水が流れ込む川はとても綺麗な色合いに映る。ありきたりな表現だがエメラルドグリーンだ。

これは冬に積もった雪が溶けて、地中に入って、先に溜まっている地下水を押し出した結果だと考えられる。

地下水はゆっくりと小さな小川に染み出して、やがて大きな川へと連なって行くのだ。そこには土砂をむしり取るような激しさはないだろう。

だから梅雨時の川の水は濁っている場合が多い。でも、これは「汚い」と言っているのではない。「きれい」とか「汚い」という美的表現の形容詞は、所詮は人間が勝手に決めたことであり、自然から見れば「大きなお世話」である。

自然には自然の摂理があるのだから、川はいつも「いつもの川」のままなのだ。

さて、わたしは川に入って何をするのでしょうか。まずはひと泳ぎする。驚くかもしれないが、そんなに冷たくないのだ。

わたしの勝手な見解というか、上記の紐付けになるが、地中深く染み入った水はとても冷たい。でも、梅雨の雨水は冷やされる前に川に出てきているので、案外暖かいのではないかと思う。

味はちょっと「泥臭い」感じがする。カブカブと飲むわけではないが、軽く口に含むと夏最盛期の川の味とは違うのだ。

夏の川は“藻類”の味がする。いわゆる水底の石に繁茂している植物だ。川の女王であるアユの主食である。

でも梅雨時の川底を覗くと、藻類の繁茂は夏のそれとは異なり、少ないように感じる。それもそうだろう。連日連夜、これだけ激しい雨が降れば、藻類も削り取られるだろう。

水面でポカポカと浮かんで岸辺に目をやると、オレンジ色の植物の実を見つけた。「何でも食べてやろう」気質のわたしの好奇心は抑えられない。

カメラを持って岩を登って行く。見たことがあるようでない。大きさ一円玉ほど。

とりあえず、ひとつもいで、匂いを嗅いでみる。ほのかな甘みがある。口に入れてみる。「うまい」すごく自然な甘味だ。

小さな種の食感も良い。例えるとイチゴの10分の1くらいの甘さだ。パクパクと次から次へと口に放り込む。もう止められない止まらない状態だ。名前がわからない。何枚か写真を撮った。

植物に詳しい兄に写真を送信したら、速攻で返信があった。「ヒメコウゾ」とある。

ネットの植物サイトで調べると、クワ科コウゾ属の落葉低木であり、和紙の原料で有名なコウゾは、このヒメコウゾとカジノキ雑種であると記してある。実はもちろん食用可だ。

手に届く範囲の実はほぼ食べてしまった。上の方がおそらく鳥たちが食べるだろう。

川に目をやるとわたしが取りこぼしたヒメコウゾの実が流れている。どこかに流れつけば種の拡大にもなるのだろう。

わたしのお腹を満たす代わりにヒメコウゾも取引をしていたことがわかる。

再び川に入ると、川の味が少し苦いような気がした。ヒメコウゾの味が残っているからだ。

水底を覗くとなぜか、藻類を食べてみたくなった。「アユの味がするのではないか」と感じたのだ。

でも今はやめておこう。夏本番に挑戦してみよう。

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