令和の歳時記 ナノハナ
まもなくサクラの季節が訪れる。いま現在、郊外の耕作地や畑にはナノハナが咲いている。
小さな黄色いその花は群生しているのに、足を止めて見る人は意外と少ない。
その理由は咲いている期間が長いことやサクラのような儚さがないからだという人がいる。
そしてもうひとつ、あの独特の“匂い”が苦手だという人も多い
実際にナノハナが群生している畑へ行くと、その数メートル前からでも“匂い”が感じられる。
「ネコのトイレっぽい」とか「ゴキブリホイホイのよう」などの散々な言われようだ。
この匂いは油成分を含んでおり、昔はランプの火を灯すために重宝したものだ。
しかし今や電気、ガス、石油などに取って代わってしまった。このナノハナ畑で大活躍しているのがミツバチだ。
春先に目覚めたばかりとは思えないほど活発に飛び回っている。花から花へだ。
ミツバチが飛来して、空中ホバリングを撮影しようとカメラを向けても撮れた試しがない。兎にも角にも多忙だ。
最初はカメラが近く気配にが外敵と判断してのことかと思った。でも、タンポポなど群生していない花ではミツバチの写真は上手く撮れたことがある。
よくよく観察してみると、実はナノハナが仕組んだ罠ではないかと感じた。これだけ群生していると受粉昆虫が止まるチャンスが減る。
だから昆虫に対して何らかのアピールをする必要だあるのでは。それが“匂い”だったら面白い。ミツバチは人間が嫌いな匂いに酩酊したかのように、ナノハナを移り飛ぶ。
もちろん、わたしの勝手な推測であるが、もしナノハナが仕掛けた罠であったのなら、人間は何の役に立たないどころか、蚊帳の外の存在だと言える。
「臭い」と言って近寄りもしないし、受粉にも協力しない。しかも食べられる。
そんな夢想をしていたら、何となくナノハナ畑をかき分けて歩いてみたくなった。歩くことでナノハナに触れるから多少は受粉に貢献できるからだ。
幸い持ち主はいない。両手を広げて倒さない程度に歩いてみた。ナノハナが体に当たるのがとても心地よかった。