【小説】生かされているということvol.7
時刻は、7時半過ぎ。
ドクターからの説明は続いていた。
「目が覚める確率は、50%です。」
衝撃的な発言、そして、沈黙の後、少し間をおいて、ドクターは淡々と説明を続ける。
「次に、治療方針について、脳に酸素がどのくらいの時間いっていなかったかわかないので、脳のダメージを軽減する低温治療をします。
1日かけて35度まで下げ、その後1日かけて36.5度まで戻します。また、その間は、眠くなる鎮痛剤と筋弛緩薬をします。体が動くと、脳に信号がいくため、極力休ませるように筋弛緩薬を打ちます。
2日後に鎮痛剤と筋弛緩薬が抜け、体温が戻った時に目が覚めるかどうかです」
再び、沈黙。
ただ、緊急搬送されてから、挿管する際に嫌がっていたので、反応はみられました。」
「!」
それは、いいことですか?目が覚める兆候ですか?と聞きたかったが、言葉を飲んだ。怖くて聞けなかった。
「低温療法の準備が整う前に顔を見られますよ。また呼びますので待合室でお待ちください」
ドクターからの説明が終わると待合室に戻った。
しばらくして、待合室に看護師さんが呼びにきた。
「HCUにお越しください。2人ずつでお願いします」
目が覚めるのは50%の確率。
そんな重い空気の中、お義母さんと一緒に妻の顔を見に行った。
時刻は7時45分。
HCUを歩く足音が悲しく響いた。
現実を目の当たりにした。
妻の体には、たくさんの機械がつながれていた。
ただ、不思議とそこにちゃんと魂があるように感じた。そう感じたかったのかもしれないが、妻の祖母の時とは違っていた。
顔はむくみもほとんどなく、治療の過程で嫌がって暴れたらしく、口を切った跡があったくらいで、きれいだった。
「ちはる!戻ってこいよ。待っているから……」
精一杯の言葉だった。
時刻は、7時50分。
希望と不安を胸に抱いて、待合室へと戻った。