【小説】生かされているということvol.12
6月10日(水)午後12時半、妻との面会を終え、娘と母とお義母さんと食事に出た。
妻が目が覚めたことを喜び合った。
私は、悩んだが、その場で不安に思うことを口に出した。
妻が目が覚めた8時半ごろに話をしているのに、12時に見た時も初めて会話をしたような反応であったこと、また、インターネットで調べると脳に一定期間の酸素供給がなされないと短期記憶が保持できないことが書いてあったことを。
しばしの沈黙。
「起きたばっかりで混乱しているからじゃない?きっと大丈夫」
と母。
「命だけでも助かって、しかも目が覚めたのは奇跡。それだけでも十分だよ」
とお義母さん。
人間は本当に欲深いとつくづく実感していた。
それまでは、命だけでもあればいいと思い、次は、目が覚めてほしいと願い、そして、いままで通りになって欲しいと願っている自分がいる。
後悔しまた、原点に戻る。それを繰り返していた。
再び病室前の待合室に戻り、夕方の面会時間まで待機した。
待機中もいろいろ調べた。もし、記憶保持ができない場合のことを考え、調べた。その中には、メモを常にすることや周りの人間は「それさっきも言ったよ」とは言いすぎないことが書いてあった。
「それさっきも言ったよ」は確かに、先ほど本人に言ってしまったかも。。
次は気を付けようと決意した。
夕方6時の面会の前にドクターと話すことができた。
そこで、不安に思っていることをぶつけた。特に短期記憶保持についてだ。
ドクターからは、回復期であることで多少の記憶障害はでることもあると説明を受けた。ただ、個人差もあるのではっきりは言えないが、若いので記憶保持もほぼ戻るだろうといわれた。
安心したが、どこまで回復するか不安に思った。
ドクターは続けた。
心臓が止まった原因については、はっきりはわからないが、カリウムが低いことで心房細動が誘因されていることは明らかであると。
そのため、まずは経口摂取後の血中濃度と尿中濃度を分析し、吸収・排出をモニタリングするとのことだった。さらに、今後対処療法として、埋め込み型除細動器(体内に小型のAEDをいれる)ことになるという話だった。
要するに、
【診断名】心房細動による心肺停止
【直接原因】不明
【誘発要因】血中のカリウム値が低かったこと。
◆カリウム値が低いことの分析
経口摂取(口からカリウム製剤を飲む)後に
①体内への吸収をモニタリング(血中濃度)
②対外への排出をモニタリング(尿中濃度)
をすることになり、結果は(1)か(2)になる。
(1) 血中濃度が高くて、尿中濃度が低ければ、吸収されている。
(2) 血中濃度が低くて、尿中濃度が高ければ、吸収されていない。
(1)の場合は、特に心臓でのカリウムの吸収になにかしらの異常がある可能性が高くなり、(2)の場合は、体内への吸収課程に異常がある可能性が高いことになる。
ただ、原因がわかっても遺伝子レベルであることが多く、治療は難しいのがほとんどらしい。そのため、再度、心房細動が起こってもすぐにAEDができるように埋め込み型のAED(S-ICD)を装着することがセオリーとのこと。
時刻は6月10日(水)午後6時を過ぎたころだった。