煙突の見える場所(1953年)
五所平之助監督作。
上原謙の頼りない夫炸裂です。
奥さんは田中絹代。
田中絹代、ちょっと演技が臭いですよね…指折って数えるシーンとか。
小津安二郎とか成瀬巳喜男作品だとあんまり気にならないのですが、今回気になる…。
奥さんは再婚、旦那さんは初婚で、何となく奥さんのほうが遠慮しているのが、田中絹代と上原謙という配役からも伺えます。
夫と死に別れた田中絹代は、食べていけないから再婚したようだし。
2人は結婚しても子供を持つ余裕がなく、できないように気をつけて生活しています。
上原謙の旦那さんのほうが、奥さんにベタベタするのですよね。田中絹代の気持ちは、上原謙ほど分かりやすくありません。
田中絹代のほうが姉さん女房なのかな…とも感じられます(実年齢は同い年)。
赤ちゃんを巡るコメディで、ストーリーは今見るとまあ予想通りです。
しかし貧困問題なども織り込まれていて、手放しで笑える感じではありません。
男女格差もありますね。
何となく現代の感覚だと、昔はみんな貧乏だった代わりに、皆で助け合って協力し合って生活してたような気がしてます。
が、実際問題本当に貧乏だと、自分が生きるのが精一杯。子供を育てられなくなったり、お金の話でギスギスしたりは、当然今より多かっただろうなと、騒動を見て思いました。
それにしても当時の男の人は威張ってますね。
「寝るから布団敷いてくれ」とか、自分の稼ぎが少ないから、奥さんがこっそりアルバイトしてたのにムクれるとか…。
出てくる赤ちゃんが、めちゃ昭和顔なのも癒されます。名前も昭和。
今の感覚だと、赤ちゃんなのが不思議な名前ですね。いわゆるしわしわネーム。
しかし、妊娠させて男は知らん顔、女の人は赤ん坊を抱えて預ける場所もなく働くに働けない…なんて、今の世の中も変わりません。いつになったら解決するんでしょうね…。
1953年、昭和28年の暮らしに目を惹かれました。
まだ舗装されてない道が多いですね。
テレビがないので、お店でも家庭でも、ラジオがいい場所で聞かれています。
ご近所の子沢山のお家は、ラジオ設置や修理を家業にしています。
洋服の人も、突っかけとしては下駄を履いています。下駄でも走れるのすごい!
家も木造建築。玄関扉が格子だけで、ガラスが入ってないことにビックリ。夜は雨戸を閉めるようですが、鍵は突っかい棒でした…。襖を隔てただけの部屋で赤の他人が一緒に生活しているのは、今の感覚だと大変そうです。
隣同士が男女なの場合は安全面も心配になります…。
当時は住宅不足だったようなので、普通だったのでしょうね…。
水道もなくて、庭で洗顔したり、部屋でちょっとした洗い物をしたりしています。使い終わった水を2階の窓から捨てることにもビックリです…。
新興宗教もこの時代よく出てきます。実際に世間を賑わせてたのかな。
2階のデコちゃんと文豪の息子芥川比呂志のロマンスもあります。
「愛してる」とか口にしちゃうのが、戦後の若い人って感じなのですかね。
昔の映画なので、今見るとテンポがゆっくりです。
「こち亀」にも出てきたおばけ煙突が出てきます。
同じ出来事でも、違う立場から見てみると色んな見え方をする…という意味でしょうか。
新東宝作品。新東宝は、東宝から別れた会社ですが実質14年しか存在しなかったのですね。
労働争議等、社会が熱かった時代ですね。