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乱れる(1964年)

成瀬巳喜男監督作品。
以下ネタバレしてます。
白黒ですが、スーパーマーケットの宣伝カーが「高校三年生」を流しているので、意外に新しい?と思って調べたら1964年でした。
この辺りは激動の時代ですね。
ケネディ暗殺、人類の月面着陸、東京オリンピック、ビートルズ来日等々…。
海外旅行自由化もこの頃のようです。
劇中でも、スーパーマーケットのせいで個人商店が追い詰められていく姿が描かれています。
戦死した長兄の奥さんだからと好きな気持ちをひた隠しにしていた時代も、変わろうとしているけれど…まだ過渡期ですね。兄嫁はその気持ちを受け入れることができません。
加山雄三が、まっすぐで直情型の次男を演じています。若大将そのもの…というより加山雄三にしか見えない…。一本調子のセリフも、幸司のひたむきな気持ちを表していると言えなくもないです…。成瀬巳喜男も何度か起用していますが、新しい時代を体現する俳優だったのでしょうね。
高峰秀子は素晴らしいです!自分の気持ちより、世間の常識や世間体、婚家の人たちの意向を優先してしまう古い時代の嫁を体中で表現しています。
この時代の女性は、どんなに頑張っても、回りが何と言っても、自分の気持ちを貫くことはできないのでしょうね。
しかし昔の日本家屋。襖でしか仕切られてない部屋で、血の繋がらない男女が眠っている…夜這いしようと思えば簡単ですよね。
でも襲ったりするシーンが描かれるのはもう少し後の時代で、この時代は襖越しにドキドキするのみです。現実の世界ではどうだったんでしょうね。
列車の中のシーン、座っている礼子に対して、隣の車両からやってきた幸司が、最初は近くに立っていて、席を見つけて移動しながらちょっとずつ近づいてきます。2人の気持ちの接近を、目に見えるように表現しています。動くのは常に幸司なのも、実際の2人の関係を示しています。
途中で列車を降りた時は、少なくとも21世紀に見ている私たちは、2人はやっと、そして結局結ばれるのねと思うのですが…そうは問屋が卸さない…成瀬巳喜男ですもの。
泣いて拒絶された幸司は気の毒ですが、いつもの癖でぷいと出て行ってしまうのを見ていると、そこで逃げないでちゃんと向き合って〜と、やはり21世紀の私は思ってしまいます…。
崖から落ちて死んでしまった幸司が、自殺だったのか事故だったのかは、一生分かりません。礼子は一生苦しみ続けるのでしょう。でもやり直せたとしても、やはり幸司を受け入れることはできないのでしょうね。
戦後、戦死した夫の兄弟と結婚することを受け入れた女性はある程度いたので、幸司が何歳か年上ならば、避けられた悲劇かもしれません。
女性が2、3歳年上なだけでも「姐さん女房」と揶揄された時代は長かったので、11歳上、そしてお兄さんの戦死した時に幸司は7、8歳だったので、この2人が結ばれるというのは、幸司以外の人の頭には浮かばなかったのでしょうね。
ラスト、運ばれていく幸司の亡骸に、駆け寄る礼子ですが、結局途中で足を止めてしまいます。温泉街の橋が渡れません。礼子の超えられない一線を表しています。幸司が死んでもなお、礼子は幸司の側に駆け寄ることはできないのですね。
ラストの高峰秀子の表情…。

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