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Photo by
osu_ellie
シベリアの話が訊きたい
ふっと思い出すことがあるのです
同窓会があれば誰かとしみじみと語ってみたいと思うのです
出来るならシロー先生あなたと話をしたいのです
あの頃は何にも分かってなくてごめんなさい
笑って聞いていてごめんなさい
10歳の私は、私たちは残酷でした
先生の話はおもしろおかしくて
まつ毛もひげも凍ったと
「外でオシッコしたらそのまま凍っていくんだよ」
弧を描いたそれは
もしかしたらとてもきれいだったかもしれないと
遠くに思いを馳せるのです
シベリアに抑留される過酷さに 故郷は遠く
涙も凍ってしまうのだろうと今なら容易に想像できるのに
シロー先生の話にはその涙を想像させる描写は何もなかった
駆け回ったグランドのあの五月の空のように
いつだってカラッとしてて
だから分からなかったのです
ただ先生にシベリアにいたという事実があったことだけを覚えています
伝えたい思いがあったでしょうに
いつか未来で思い出してくれたら
それでいいと思っていたのでしょうか
私たちへの愛は先生の選んだ言葉
言葉は先生の優しさ
シロー先生叶うなら私はあなたと話がしたい
こんな齢まで待たせてごめんなさいと謝りたい
命について 生きるについて
今さらながら考えているのです
生きて 帰って 私たちの先生で
出会ってくれてありがとう
教えてくれてありがとう
「10年後の、20年後の君たちが・・・」
続いた言葉は忘れてしまったけれど
一緒に埋めたタイムカプセルも
空けないままに遠く過ぎてしまったけれど
いまやけに鮮明にシロー先生あなたが思い出されるのです