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時間を味わう

京都旅行が決まってから、お香めぐりたいなあってことだけは心の中にあった。

その望みが叶ってみると、
お香は癒しと美が溶け合うアートで
私の心をときめかせた。

お家に帰って、京都の陶器屋さんで出会った清水焼の香炉とともに、サンガインセンスのお香を焚く。

「お香そのものではなくて、煙と空気が混ざり合った香りを楽しむんです」

店主さんの言葉を頭に浮かべながら香りを感じてみる。

煙が上の方へあまりにも美しく漂うのでつい時間を忘れてしまう。

時間が消費されていく現実のなかで
時間を味わう贅沢がここにはあって、

火をつけるだけで急に現実から離れて幻想的かつ神秘的な空間に変わっていく。

一歩足を踏み入れたら戻ってこられない

そんな恐怖に似た高揚感がじんわりと浮かんできて、そのまま煙が空気と溶け合うこの場所にじっと身を置いていると

だんだん私と周りの境目もぼやけて曖昧になっていく。

胸のあたりでとけとげしていた塊も
いつの間にかふやけている。

煙と香りの美しさで包み込まれながら、体中が隅々まで満たされるこの時間と空間にいま、私は魅了されている。

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