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幽霊はDさんが苦手。

中学時代の話ですけど、合宿で泊まった宿が如何にもな所だったんですよ。

昭和な雰囲気と言うんでしょうか?
お婆ちゃんと観る昔の映画に出てくる様な所で壁紙が所々剥がれてたり、床の赤いカーペットはシミが付いてたり老朽化が凄かったんですよ。

しかし、従業員の方達は優しくて食事も美味しかったのです。

初めに余計な事をしたのは青峰くんと黄瀬くんでした。

和室の6人部屋に入って荷物を置いて練習着に着替えてた時です。

「マジでボロいよなー、ユーレイ出るんじゃね?」

ちょっとビビりながらAさんが言うとKさんが調子に乗ったんです。

「Aって怖がりっすもんねー?大体、こんな不自然な場所に貼ッてるポスターが怪しいんすよ。」

と笑いながら言って明らかに不自然な場所に貼ってる地域の観光案内ポスターを剥がしたんです。

「えっ?」
「ちょっ?K!」

ポスターの張っていた場所にはお札が何枚も隙間なく重ねて貼られていました。

KさんとAさんが青ざめて固まっているのを着替え終わった私達が振り返ると矢張り皆、言葉を失いました。

Dさんだけは何時もと変わらずにAさんとKさんを注意します。

「AとKは早く着替えを済ませろ準備が出来た者は早くロビーに集合するぞ、練習時間が勿体無い。」

凛としたDさんの言葉に皆が気を取り直して…内心は動揺しまくりですけどDさんの言葉もその通りだと、みんな言う通りにしました。

べ…別にお札よりもDさんが怖かった訳じゃ…ないですよ?

ええ、本当に!

私達は宿泊する宿から近い練習場で一頻りトレーニングを終えました。

それでも移動してすぐのトレーニングは余り、体力の無い私には答えましたけど。

クタクタになりながら、宿に戻り食事をしてから順番に風呂に入りました。

でも私は体力が余り無い上に、食も細いから晩ご飯を残したかったんです。

でも、Dさんは「用意してもらった物を残すのは失礼だと思わないのかな?」とニコニコの黒い笑顔で私が食事を食べ終わるまで見守られて完食しました。

フラフラになり部屋に戻ってから、お風呂は備え付けられたトイレと一体型のユニットバスで済ます事にしたんですが…。

シャワーを浴びている時に排水口から大量の髪の毛が出てきたんです。

その尋常じゃない量とシャワーのお湯が何故か温くて赤い色になっているのにも気付いてしまいました。

私は固まりかける身体を必死に動かして泡だらけのままタオルを掴んで飛び出した時、足首に髪の毛が巻き付いて扉の外で転びました。

客室にはMさんとCさんが居ました。

「どーしたの?」

Cさんが食事の後なのにポテチを食べながら呑気に声を掛けて来ます。

「食事を食べたばかりで、スナック菓子を食べるなんて…しかもこぼして行儀が悪い!」

礼儀作法に厳しいMさんはお風呂の用意をしながらCさんに冷たく注意していました。

そんないつも通りの2人にホッとしながらも、未だに足首に髪の毛が巻き付いている私はガタガタと歯の根が合わないながらも必死に助けを求めます。

「シャワーが…血だらけで…床が…髪の毛…髪の毛が!私の足にも髪が!た…助け…助けて下さい!」

私は普段余り、大きな声を出す事はありません。

そんな私の叫び声に2人はようやく私の方に振り向き絶句しています。

Cさんはポテチの袋を落とし、Mさんはお風呂セットを落としました。

ボディシャンプーの泡だらけだった私の泡は白じゃなく血の赤が混ざりピンク色で、普段は無表情とも言われる私の顔は涙でぐちゃぐちゃになってます。

「えーじゃあ、トイレ使えないじゃん」
「き…気のせいだろう。」

2人共明らかに顔を青ざめて動揺して訳の分からない事を話しますが、目は涙目でした。

取り敢えず2人に手伝ってもらいながらタオルで身体を拭いて服を着ると大浴場から戻って来たAさんとKさんが部屋に入るなり青ざめて震え出しました。

まだ、ユニットバスの話はしていないのにと不思議に思って聞いたんです。

「2人共どうしたんですか?」

「お…おい…後ろ…。」
「私ちゃん、押入れ…。」

2人が指を私達3人の後ろの押入れを指差しました。

こう言う時は絶対に振り返ってはいけないのに振り返るのは何故でしょうか?

私達3人が振り返ると押入れが少し開いていて大量の手のひらで埋め尽くされていました…。

「ひぃっ!」
「なんなのっ!」
「うわぁっ!」

3人共悲鳴を上げて飛びさすりました。

5人で身を寄せ合いながらガタガタ恐怖で震えていると部屋の扉が開いて皆がビクッとしたら、コーチと明日の練習内容の打ち合わせをしていたDさんでした。

「何をしているんだ?MとCは風呂が開いたみたいだから入って来い。」

そう言いながら普通に部屋に入ると自分のボストンバッグから着替えを取り出しています。

「Dさん…押入れが…。」

私が涙声で震えながらそう言うとDさんは押入れを見ました。

「ああ、なんだ少し開いているな。」

そう言って手だらけの押入れを閉めました。

「え?」

私達が思わずそう言ってしまったのは仕方ありません。

それからは霊的な物は何も、Dさんがいる間は出ませんでした。

いない時にうっかりトイレに入って鏡で女の人とこんにちはしたり、窓のカーテンの隙間から軍隊の服を着た人が覗いてたりしましたけど…。

幽霊はDさんが苦手みたいです。

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