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鈍色の街。ープロローグー

 血統書付きの人殺しと言われていた時期が在る。

父親の家系は種子島を手に合戦していた時代迄、遡る事が出来る生粋の兵隊だった。

軍警に勤めていた父親は殆ど家には居なかったが、厳格で優しい人だったと記憶している。

父親とは見合いで結婚した母親と言う女性は、美しい人で…そして何処までも女を捨てきれない悲しい人だった。

新堂タカシには厳格な父親と美しい母親と可愛い妹が居た…過去形だ。

幸せは失くして初めて気がつくと七歳の時にタカシは思い知る。

何の変哲も無い昼下がり、小学校から帰ると珍しく父親が出張先から帰っていて未だ幼い妹をあやしていた。

「なんやお父ちゃん、帰ってたんか?」

「おう、タカシ。おかえり…ちょっと悪いけど煙草買って来てくれへんか?次いでにお前らのオヤツ買っといで」

赤味の強い茶色の髪を短く刈り上げた、タカシと良く似た穏やかで精悍な父親は快活に笑うと千円札を一枚、タカシに渡して遣いを頼む。

「ジュースも買ってええ?」

「ええけど、晩飯食べれるだけにしとけよ?」

「わかった」

それがタカシが覚えている家族と話した最後の言葉になった。

近所のコンビニで父親の煙草と妹の大好きなチョコレートとタカシが好きなスナック菓子にジュースを購入していた時、自宅では母親と浮気相手が父親と妹を包丁で刺し殺していたからだ。

家に戻る帰り道、パトカーが作之助の横を通り過ぎて行ったのを薄っすらと記憶している。

大阪の閑静な住宅地で起きた、凄惨な殺人事件の被害者と加害者の家族になった瞬間だった。

母親の浮気相手は父親の年の離れた弟で、良く家に遊びに来てはタカシや妹の世話を焼いてくれて…大好きだったのだ。

ずっと美しい母親に懸想して父親が家に居ない間に関係を持ったらしい、母親の腹にはその男の子が宿っていたと聞いたが理由などどうでも良かった。

何故、罪の無い父親が、妹が殺されなければならなかったのだろうか?あの時、お遣いを頼まれなければタカシも殺害されていただろう。

母親とあの男は邪魔だと言う理由だけで、家族を殺して新しい家庭を造るつもりだったのか?

当時でもニュースや週刊誌の良い餌になったが、事実など犯行を犯した本人達でさえ分からない話だろう。

特殊過ぎる事件の遺児となったタカシを引き取りたがる者は居るはずもなかった。

祖父母は自分達の子供が起こした犯行を世間から、責められて精神的にも肉体的にも参っていたし、親戚にしても家族を喪った抜け殻みたいな少年を養育する余裕が無かったのだ。

父親と妹の密葬の時に、制服姿のタカシに声を掛けてくれた男が居た。

中肉中背の余りにも特徴の無い何処にでも居そうな父親と同じ位の歳の男。

「君が新堂の子供か?」

関西弁では無い言葉遣いにタカシは頷いた。

「俺は、新堂の親友だった。…行く場所が無いなら俺と来るか?」

そう言って男は全てを失って壊れた少年に手を差し伸べた。

タカシにはその手を取るしか生きる術がなかった…。

半年後、タカシは初めて人の命に幕を下ろす事になる。

父親の親友は一流の殺し屋だったのだ。

                続く

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