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能力不足の首長に《迷惑》

コラム『あまのじゃく』1953/8/14 発行 
文化新聞  No. 854


小林町長の命脈

    主幹 吉 田 金 八

 最近飯能町議会の内部および町民の間に、小林町長の退陣を要求する声がかまびすしくなって来た。
 一応の試験期を過ぎて、旧軍隊で言えば一期検閲に相当する期間が経ったというのに、この小林受験生は白紙同様の答案を臆面もなく出してきた。
 さすがの試験官も及第点がつけられず、せっかく死ぬほどなりたかった町長だから、大概のことならお情け免除を出したい所だが、白紙答案では如何とも術がなく、涙をのんで「首を切らざるを得ない」と悲痛な決意を固めようと頭をひねっている形である。
 小林町長は「分村に身命を賭して反対する」ことを唯一・最大の公約として登場したのであって、未だに飯能町が分村派の熾烈な攻撃運動にもめげずに「分村させない」と頑張っている以上、確かに小林町長の公約は立派に守られているわけだから、この意味においては小林町長はなんら町民から指弾を受ける必要はないということになる。
 しかしこの「分村させない」という勢力が、果たして小林町長の主張によって支えられ分村をしないでも元加治が納得し、新たに大飯能の建設に協力する方向に導かれているであろうかといえば、その全てが「ノー」である。
 町長は分村させまいとする努力も、させて事態を収拾しようとする努力も何一つしていないというのが、事実を直視する人々の正しい見方である。彼は町長になる一番重大な役目である、分村問題の解決努力を払っていないのみか、その他一般町政に関して何一つ町の首長としての指導力、主導性を発揮することなく、ただ高い月給と自動車に乗り廻せる有難い役目が1日でも永からん事をのみ願うのあまり、議会では蚕(かいこ)みたいな顔をして、議員の面罵にも汲々として平身低頭、ただこの日一日さえ過ぎてくれれば良いと頭を下げ通し、議会が終わり低気圧が頭の上を通り過ぎれば、やれやれといった具合で急に元気付き、町長交際費で議員たちに酒を振舞って、ゴム風船のように膨れかえることを繰り返している。
 頭を下げて謝ることで自分の首が安泰ならば、どんなに男を下げても悔しくないというふうに見える。
 だからシッポを握られることを恐れるあまり、何一つ、本当に何一つ仕事らしい仕事をしていない事は、町民の既に呆れ果てているところである。
 記者は商売柄毎日役場に出入りしているが、小林町長の時代になって、目新しい事業といえば、土木課用のトラックと乗用自動車を買ったことと、野田の橋工事と加治小学校の新築ぐらいのもので、この程度の仕事をするにも、何百万の町林財産を処分しなければならないなど、誠に歯痒い次第と言わざるを得ない。
 だから町長などあって無きがごとき存在で、町有林の入札、契約のごとき当然執行部が行うべきものも、町議会が代わってやりかねない醜態をさらし、朝日町有林処分委員長が、「それではこれで契約をすることに」などと町長の分野まで執行しそうな勢いに、町田議長が慌てて注意をする様など、どんな重大な場所でも常に脇役程度の存在になってしまい、こんなことなら「町長はいらない。助役か庶務課長さえいれば間に合いそうだ」という感を第三者に与えている。
 〇〇の〇〇〇〇れすらも〇〇〇〇〇〇〇〇に〇〇*が出て協議会に変更されるドジを踏んだ事などでも、「元加治が税不納で困ったから何とかお知恵を拝借」などと、委員会に相談して「それは町長の判断と権限内の仕事だ」と平手打ちを喰うなど見られた図ではない。
 議会は税率と、賦課方式を決定するだけで良いので、町税に関しては町長は当然適法通り行うべきで、納税を集団で拒否する如き事が不都合だと思うなら、どしどし差し押さえを強行などすべしで、それを行ってもうまくいかぬ見通しなら、集団不納の根本を解決することに努力すべきで、その事が「あなたの最大唯一の任務」ではないかと言ってやりたくなる。
 既に議会内には18日の臨時議会で町長提案を否決して、不信任的態度に出ようとする動きすらあり、それまでされては如何に図々しい町長でも議会を解散せざるを得まいし、解散、総選挙後の第1議会で町長不信任案を出されれば、どうでも辞職せざるを得まいなどと、先を読んでる議員もあり、どう考えても小林町長の命脈も長くはなさそうな見込みとはなってきた。
(※ 編者注 *印 原書不鮮明により〇表示にします。)


 コラム『あまのじゃく』は、埼玉県西武地方の日刊ローカル紙「文化新聞」に掲載された評判の風刺評論です。歯に衣着せぬ論評は大戦後の困窮にあえぐ読者の留飲を下げ、喝采を浴びました。70年後の現代社会にも、少しも色褪せず通用する評論だと信じます。
 このエッセイは発行当時の社会情勢を反映したものです。内容・表現において、現在とは相容れない物もありますが、著作者の意思を尊重して原文のまま掲載いたします】

 

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