目立たない人
第10節、名古屋は1-2で浦和に敗れた。名古屋の唯一の得点は0-2にされた後、後半アディショナルタイムだった。大事なのは、勝つか負けるか。0-2も1-2も負けは負けだ。ならば、最後の最後、和泉が押し込んだ1点の意味とは何だったのか。
その1点は、ある意味で和泉らしかった。名古屋の選手として挙げたそれまでの13点は、大卒ルーキーだった2016年まで遡っても、勝ち越しや同点にして試合を動かすゴールがほぼないのだ。唯一の決勝点は19年8月、吉田豊のシュートが頭に当たってコースが変わり、記録上は和泉のゴールとなったものだった。1-0を2-0にしたゴールは、勝利を引き寄せはしても、スポットライトは当たらない。和泉は、不思議なほど、目立たない。
和泉の実力に疑問の余地はない。どのJ1チームでもスタメンに十分値する平均点の高さ。狭いエリアを複数選手で打開する機転と精度は、リーグ全体でも上位と言っていいだろう。相手の出方次第では単騎で切り裂けるキレもある。主役になれる地力と周りを生かす献身を併せ持ち、文字通り、キーパー以外はどこでもできる。
若手のころは、使われればどのポジションでも素直にこなせる半面、本来の持ち味である攻撃は、素直に突き進みすぎて相手に読まれる場面が目立った。それが、一度は鹿島に移って名古屋に戻り、まもなくJ1で200試合。31歳の今、目付きにも体にもたくましさを増し、全盛期と言える迫力を備えている。
彼に成長をもたらしたもの。それは、一戦一戦の積み重ねにほかならない。脇役を厭わず、しかし甘んじず、練習から全力を注いだ結果が今の和泉をつくっている。目立たない和泉は、和泉のまま確かに成長を遂げ、チームに必要とされる存在であり続けている。
0-2を1-2の負けにした浦和戦の1点。その意味は、和泉には関係ない。1-2は、2-2への、3-2への通過点なだけだ。和泉は誰よりも、試合に勝ちたい。だから名古屋に戻ってきたし、だから何でもやる。誰にどう思われようと、さして重要ではないのだ。
過ごした時間の分だけ強さを増して、まっすぐ前を向く。ベテランとなった和泉を、私は応援せずにはいられない。
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