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#3 一皮むけたら【創作】
昔々ある日の話です。
竜神さまが遠くの空へと昇った頃、二匹の蛇が温かい布団から顔を出し、こんな事を話し始めました。
「やぁや、蛇さん。今年はついにおいら達の出番だねぇ」
『さぁさ、蛇さん。竜さんに負けないように頑張らなくっちゃなぁ』
二匹の蛇はうーんと伸びをし、にょろにょろと体を引っ張りだしました。
お互いの姿を露わにした時、一匹は驚いた顔を見せました。
「やぁや、蛇さん。いつの間にキレイな体になったんだい?」
そう言われた蛇は確かにとても綺麗な体をしていました。
本来この時期には見れない浅黄色の体は、鱗までキラキラと輝いて見えます。
彼は、少し自慢げに鼻を鳴らし
『そりゃさ、蛇さん。今年は僕たちの年なんだから、今までの僕じゃダメだと思ってなぁ。脱皮をしたんだよ。』
一匹の蛇は大層驚きました。
何せ脱皮をするのは、暑い夏の時期が多いからです。
それに二匹の蛇は、ほとんど同じタイミングに脱皮をしていましたから、こんな事が起こるとは思ってもみなかったのです。
「やぁや、蛇さん。一体全体どうやってやったんだい?」
『さぁさ、蛇さん。一体全体どうやったと思う?』
「やぁや、蛇さん。それは難題だね」
『さぁさ、蛇さん。これは難題だよ』
くねりくねりと体を動かしながら、愉快そうにもう一匹の蛇は笑います。
簡単には話してくれないようです。
「わかった、いつもと違うことをしたんだね」
『そりゃそうさ。いつもと同じじゃ変わらないからね』
「いつもと違うことかぁ。一体全体何をやったんだろうか」
『いつもと違うことさ。一体全体何をやったかじっくり考えてみると良いよ」
一匹の蛇は思いつく限りの事を話しました。
いつもより早く起きたとか、いつもよりご飯を沢山食べたとか、いつもより運動を頑張ったとか。
けれどもう一匹の蛇は愉快そうに笑っては、どれも違うと言いました。
「やぁや、蛇さん。降参だよ。君は一体全体何をしたんだい?」
『さぁさ、蛇さん。答えを言おうか』
ごくり。
生唾を飲みました。
一生懸命考えた答えのどれもが違ったのです。
これ以上の事とは一体何なのでしょうか。
その時、一匹の蛇さんは体の異変に気が付きます。
あれ?なんだが無性に体がかゆくなってきました。
『さぁさ、蛇さん。正解はね、一生懸命考え、生きることさ」
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【一皮むける】
それは、技術・容姿などが、洗練されて以前よりもよくなること。
草臥れた皮を脱ぎ去り、こうしてめでたく新年を迎えたのでした。