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やさしい童話《#毎週ショートショートnote》  

母親たちは忙しい。

保育園帰りのスーパーのカートに、あるいは親の診察中の待合室脇で、子供が夢中になる優しい童話を勝手に再生してくれるATM(Auto Teller Maschine)には誰もが助けられている。

ある日の少女は、お気に入りの白雪姫が自動再生されたことに喜んで手を叩く。そのリズムでうっかり裏メニューが起動されてしまったことに、母親は気づかない。

―それは、雪のように白い肌、血のような赤い唇と黒檀のような黒髪。そんな見た目の美しさだけを望む母子の童話。

少女は真剣に聞いている。
買い物は長引き、次の話が始まる。

―それは、ガラスの靴に足を入れるため、長女には「つま先を切り落とせ」と、次女には「踵を切り落とせ」とナイフを渡す、手段を選ばない母子の童話。

ATMに釘付けになっている娘を遠目で確認した母親は井戸端会議中。
最後に愉しい音楽とともに再生された「ハーメルンの笛吹き男」の世界へと娘が旅立ったことに、まだ気づいていない。

(412字)

こちらの企画に参加させていただきました。田原さん、ありがとうございます。
他の方とネタが被っていたらすみません。本当のグリム童話、大好きです。

白雪姫の母親がルッキズム的な思想だったと高校の授業で教わり、グリム童話に興味を持ちました。(どんな授業や)
その後、ヘッダーのちくま文庫のグリム童話を購入、衝撃を受けました。
シンデレラ(灰かぶり姫)の話の、なんと痛々しいこと……。
ハーメルンの話はその本の中にありませんでしたが、ミステリには欠かせない童話ですよね。
楽しいお題をありがとうございました。

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豆島  圭
最後までお読みいただき、ありがとうございました。 サポートしていただいた分は、創作活動に励んでいらっしゃる他の方に還元します。