満月のフール
あの夜、僕は、本当は
復讐するつもりで呼び出したんだ。
なんてウソだよ。ちょっと信じた?
急な誘いにヤな顔もせず、すぐに靴を履いた君を久々の学校に連れ出して。
ふざけて飛び込んだプールの気泡に、二人の思い出を閉じ込めた。
きっかけは君にコンパスを貸したこと。
破れかけた学生証の顔写真。「あの世からのFAXみたい」って君と笑い合ったこと。
君の部屋のBON JOVIのポスター。せーので誰が好きか指さしたこと。
毎日増える肩の痣。君が、奴らから僕を守ってくれたこと。
それで満足だったから。
触れてしまった泡沫はつぎつぎ弾けて消えてしまう。そんなの分かってたことだから。
だから僕は言ったんだ。
「君が好きだ。なんて言ったこと。
あれはウソだよ。信じてたの?」
金を払うか君をからかう。奴らに選択させられた。そろそろ親にもばれるから。親友よりもお金を選んだ。僕はそういうヤツなんだ。
だから君は悪くない。
君が離れていったのも、
痣がふたたび増えたのも。
僕が、ここから消えたのも。
君は、ひとつも悪くないんだ。
プールサイドに座る君の伸びた髪から滴る水が、頬を伝って落ちる光が、再びプールに溶けた時。君の時間は進み始めた。
あの夜、話せてよかったよ。
だから僕はもう今の君の前には現れない。
現れたりはしないから。
毎年、この日、この場所で、両手を合わせてくれなくっても。
僕は、全然平気だよ。
あの夜、僕は、本当は、
ずっと一緒にいたいと願った。
なんてウソだよ。ちょっと信じた?
(了)
※「あの世からのFAXみたい」
『アメリ』(原題: Le Fabuleux Destin d'Amélie Poulain 2001年4月に公開されたフランス映画)の台詞「そう。死んで忘れられること。だから、自分の顔を映して、この世に残しているのよ。まるで、あの世からのファックスみたいに」より引用。