消えた鍵(解決編?)《#シロクマ文芸部》
消えた鍵の謎は解けたのだろうか。
私は半信半疑で指定された時間に美術館に入った。
すでに彫刻家仲間や美術館スタッフなどが、私の彫刻を取り囲むように佇んでいる。
昨日話をした怪しげな「探偵の代理人」はいたが、肝心の探偵はどこにいるか分からない。
昨日と違って蝶ネクタイにシルクハットをかぶった代理人ワタナベは、関係者全員が集まったところで声を張り上げた。
「なぜこの状況になっているかは、たつきち先輩の話を先に読むがいい!!」
(↓読まないと分からないです)
そしてワタナベはニヤリと笑り、コホンとひとつ咳払いをしてから指を一本たて、ある人物を指差した。
「まず、第一の容疑者は、あなただ。オカモトさん」
指を差された長髪の男性が肩をビクっと震わせた。
「あなたは、自分の作品の隣に置かれた『鍵を持つ少女像』が一日にして人気作品となったことに大層腹が立った。早いうちに作品を壊してしまいたいと考えた」
「で、で、でも、ぼくは……ぼくじゃ……」
オカモトは両手を口元に寄せ、分かりやすく慌てた。
「そう。残念ながら、あなたにそんな度胸はない。匿名で他の作家の悪口を投稿する程度のことしかできない小さい男だ。それが作風にもよく出ている」
オカモトはガックリうな垂れ、膝を抱えて座り込んでしまった。
「さて、次の容疑者は、あなただ。館長!」
ワタナベが振り返って指を差した白髪交じりのスーツの男が「はあ?」と目を丸くする。
「あなたなら、防犯カメラのスイッチを切って一晩中でも鍵を削り取ると言う作業が行える」
「わ、私はそんなことしないぞ!」
「そう。残念ながらあなたは館長でありながら彫刻に全く興味がない。閉館後、毎晩横丁で呑んだくれていることは周知の事実だ。アリバイがある」
スタッフ全員が館長を白い目で見ると、館長は二日酔いの顔を真っ赤にしてうつむいた。
「となると、犯人はやはり『作者』しかありえない」
ワタナベを取り囲むようにして立っていた人物が全員私を振り返った。
「……私? 何を言い出すんだ」
「作者は、この少女が鍵をかけて部屋の中に閉じこもるところを彫刻にしたかった。来週発売される美術雑誌の記者にもそう語っていたな。ところが、もう一人の作者は真逆の思いで製作していた」
もう一人の作者?
周囲が急にざわめいた。
「そう。この彫刻は合作だ。あなたと、あなたの妹さんの!」
私の体がこわばったのが分かった。なぜたった一日でそのことが分かったのか。妹が存在することは誰も知らないはずだ。
「そもそも彫刻家としての才能があったのは妹さんの方だ。あなたは単なるマネージャーでしかなかった。だが、いつのまにか病気がちで内気な妹さんを利用して、あなたは自分の作品であると偽って今まで活躍してきた。違いますか」
「な、なにを根拠に……」
握りしめた拳が汗で滲んだ。
「この作品で、妹さんは鍵を開けて外へでていく自分を表現したかった。あなたから離れて、一人で彫刻家として生きていきたかったのです。おとといの晩、あなたは妹さんからその気持ちを初めて告げられ、口論になった」
カツカツというワタナベの靴音が美術館の天井に反響する。
彼は少女像の横に立ち、今は何も持っていない指の部分を覗き込んで首を横に振った。
「この細い指ではお兄さんには抗えない。力では勝てない。そう考えた妹さんは……可哀そうに。二度と出て行かないと泣きながら誓い、その証拠として鍵をきれいに削り落とした。ここまで綺麗に、彫刻の指を傷つけずに削るには相当な技術がいる。それは妹さんにしかできない」
ワタナベは私を見つめて確認するように言った。
「そうですね?」
「クッ、クッ、クッ」
私は腹の底からこみ上げる笑いをおさえることができなかった。
「ク、ハ……ハハッ、ハハハッ! ワタナベさん、やはりあなたは単なる代理人に過ぎないようだ。バカバカしい妄想をありがとう。面白かったよ」
「どこか違うとでも?」
笑われたワタナベは片方の眉をピクリと上げ、挑戦的な顔つきで聞いた。
「妹がここに来られるわけがないだろう。それに私だって、鍵のみを削り取る技術くらいはある! バカにするのもいい加減にしろ!」
「では、鍵を削り取ったのは、妹さんではないと?」
「当たり前だ! 二度と部屋から出られないように、この像の鍵は私が奪ってやったんだ! いい気味だ。あいつは今頃……」
自慢げに叫んだ私は、そこでハッと我に返った。
座り込んでいたオカモトも、うつむいていた館長も、そこにいた全員が驚いた顔で私を見ていた。
ワタナベは蝶ネクタイを指でつまみ、片方の口角をあげて私に尋ねた。
「では、妹さんは、今どちらに? おとといの口論の後から、彫刻を掘る音が聞こえないとお隣さんが心配してらっしゃいましたが……」
(了)
シロクマ文芸部に参加させていただきましたが……。
たつきちさんの作品、横取りです。横取り40万です! (;´・ω・)ごめんなさい。
だって、物凄くそそられる題材だったんですもーん。
解決編の予定がないって書かれてたからー。
いちおう許可は取りましたが、お気に召さなかったら闇に葬ります~
小牧部長、先輩部員のたつきちさん、ありがとうございました!