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呼び鈴が鳴って目を覚ました。玄関の扉を開けると親友が立っていて、今から学校に行こうと言う。真夜中だけど気分が乗ったので、靴箱の奥からスニーカーを引っ張り出した。 校舎の屋上にあるプールに忍び込んだ。鏡みたいな水面に満月が輝いている。とても月が近い夜だ。彼がプールに飛び込むと、割れるみたいにそれは弾けた。せっかくなので後に続いてみる。 勢いよく飛び込むと、気泡が目の前を覆った。その1つ1つが鮮やかに色を宿し、2人のかけがえのない思い出を描いている。きっかけは席が隣にな
私が幼い頃、母は蟻に食われた。私の好物だった都こんぶを買いに出掛けた帰り道、軍隊蟻の大群に襲われて巣穴に引きずり込まれたらしい。実際にその場面を見たわけではないし、今思えば葬式を挙げてもいなかったけれど、度数高めの缶チューハイを片手に涙を流す父にそう聞かされ、幼い私は鵜呑みにした。以来、大人になった今も蟻を食べるのを止められない。 地面に蟻を見つけたら反射的にしゃがみ込み、つまんで口に入れてしまう。噛めば口いっぱいに広がる酸味。べつに美味しいわけではないが、ついつい食べ