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私の日と呼べるものを、すべて蔑ろにされてきた。 誕生日もろくに祝わず、卒業式にも顔を出さない。結婚式に至っては招くことさえ憚られた、そんな母だった。 いつからこうだったのかはわからない。物心ついた時にはすでに、母の私を見る目は冷えていた。出来のいい兄ばかりを持て囃し、「お兄ちゃんを見習いなさい」を刷り込みのように私に唱え続けた。実際それは刷り込みで、多感な時期を経て成人してもなお、私は自分が不当な扱いを受けていることに気づかなかった。 それを気づかせてくれた人と結婚を決め
私が幼い頃、母は蟻に食われた。私の好物だった都こんぶを買いに出掛けた帰り道、軍隊蟻の大群に襲われて巣穴に引きずり込まれたらしい。実際にその場面を見たわけではないし、今思えば葬式を挙げてもいなかったけれど、度数高めの缶チューハイを片手に涙を流す父にそう聞かされ、幼い私は鵜呑みにした。以来、大人になった今も蟻を食べるのを止められない。 地面に蟻を見つけたら反射的にしゃがみ込み、つまんで口に入れてしまう。噛めば口いっぱいに広がる酸味。べつに美味しいわけではないが、ついつい食べ
目を覚ましたとき、雨はまだ降っていなかった。 身支度を整えてマンションを出たとき、腕に水滴があたったような気がして、ショッピングモールに到着したときには、どしゃ降りの雨になっていた。 屋外の平面駐車場に車を停めて、しばらくフロントガラス越しの雨を眺めていた。ショッピングモールの壁に取り付けられた衣料品ブランドの看板が輪郭を失って滲んでいる。黄色い雨合羽を着た子どもが車の前を駆けていく。ワイパーが雨模様の景色を右へ左へ掻き乱す。 ショッピングモールに到着したときには、す